物流の2024年問題

(2024年02月19日)

持続可能な物流に向けて


働き方改革として2024年4月1日からトラックドライバーの年間の時間外労働時間(残業時間)が規制され、「輸送能力が不足する可能性=物流の2024年問題」が指摘されている。

 

国内の9割は自動車輸送

全日本トラック協会によれば、日本のトラック輸送の市場規模は19兆円(平成30年)で物流市場29兆円の約7割を占めている。国内貨物の9割以上が自動車輸送に依存しており、2020年度は国内貨物輸送量41億トンの内、39億トンが自動車輸送となっている。トラック運送業の事業者は全国に6万2千社以上あり、従業者は194万人、事業者の99%が中小企業となっている。物流件数は直近の約20年間で約2倍に達し、物流の小口多頻度化が急速に進行している。

日用品では90%以上、食料工業品では80%以上が営業用トラックで輸送されており、トラック運送業は社会経済活動を支えるインフラとなっている。またコロナ禍でトラックドライバーはエッセンシャルワーカーとして社会を支えた。EC市場の拡大、宅配物の増加による再配達削減など、物流の現状がクローズアップされた。(経済産業省・国土交通省・農林水産省「我が国の物流を取り巻く現状と取組状況」など)。

 

トラックドライバーの働き方改革

トラック輸送の需要は伸びているが、ドライバーが不足しているため、ドライバー一人ひとりへの負担が増加している。

長距離輸送などの業務では、他の産業と同じ労働基準を適用するのが難しいため、現状ではトラックドライバーに関しては、36協定により時間外労働の上限規制がないなど、輸送業務に特化した働き方となっている。

トラックドライバーの働き方を改善し、雇用の確保、物流の安全性・信頼性の向上をはかるため、2024年4月からトラックドライバーの残業時間の削減などを盛り込んだ改善基準が適用されることになった。

この改善基準は、「働き方改革」推進を目的としている。働き方改革関連法による時間外労働時間の上限規制が2020年までに施行されているが、業務の特性や取引慣行により建設事業、自動車運転業務、医師などについては2024(令和6)年3月まで猶予されている。

2024年4月からトラックドライバーに対して時間外労働の上限規制(年間960時間)、拘束時間の基準などが適用され、労働条件の向上がはかられる。

来年4月に向け、高崎地区運送事業協同組合の津久井真次事務局長は、「自動車貨物輸送業界は、燃料の高騰やドライバー不足などの課題を抱えています。業界として働き方改革に取り組み、安定した輸送や人手不足などの課題解決のために努力しています」と話す。

 

「2024年問題」に向けた取り組み

 

輸送能力の14%不足を試算

人手不足が続く中、この改善基準によってトラックドライバーの労働時間が短くなれば、これまで通りの輸送ができなくなると懸念され、これを「物流の2024年問題」と呼んでいる。

2024年4月から残業時間は「上限なし」から「年間上限960時間」となり、一日の最大拘束時間も短くなる。他業種の年間残業時間=上限720時間に比べると240時間も多く、自動車運転業務については、実情に合わせた緩やかな規制と言えるが、今までどおりの輸送を継続するためにはドライバーの増員が必要であり、人材の確保は難しい。

その結果、運用面ではこれまで1日で運んでいた距離に、2日を要することになったり、長距離便の運行回数が減ったりして物流が滞りかねない。

取り扱う荷物が減少すれば、運送事業者の売上や利益の減少、トラック運転手の収入減などにつながる。運送事業者の経営、従業者の生活にも影響する深刻な問題と言える。

これまで国内物流は上限規制の無いトラックドライバーの残業に依存してきたと言える。2024年問題にかかわる課題を改善していかないと、輸送能力が14%不足(約4億トン)すると国土交通省は試算している(国土交通省「2024年問題について」)。またその後もドライバー不足が見込まれ、2030年度は34・1%不足する可能性があると試算している。

 

荷待ち時間や荷役作業を短縮

2024年問題には、荷物の積み降ろしに伴う長時間の待機などトラック運送事業者の自助努力だけで解決できない課題を含んでおり、トラック運送事業者がコンプライアンスを確保できるよう、国土交通省は2024年問題に対応するためのガイドラインを策定し、荷主に向けた働きかけを行っている。

ガイドラインは、トラックドライバーの働く環境を改善するため、荷主や配送先での荷待ち時間の短縮、荷役作業の改善などが盛り込まれている。

荷待ち時間には、時間指定にあわせるための時間調整による待ち時間も含まれる。これまでの調査で、トラックドライバーの1運行あたりの荷待ち・荷役作業等にかかる時間が合計3時間となっている。ガイドラインではこの時間を1時間以上短縮し、2時間以内とするよう荷主事業者に要請している。達成した場合や、既に2時間以内となっている場合には、更に時間の短縮に努めることになっている。

また荷物の積み下ろしでは、トラックドライバーがフォークリフトを運転して作業することは運送の付加価値や荷主へのボランティアとして常態化しており、ドライバーの仕事は増えている。ガイドラインでは、負担となる商慣行の是正や、運送契約の適正化について定め、荷主とトラック事業者が連携した取り組みに期待している。

 

高速道利用やコスト転嫁

高速道を利用することによる運行時間の短縮は、限られた時間で効率的に輸送し、トラックドライバーの疲労軽減、拘束時間の短縮に有効となる。その場合、高速利用料を考慮した運賃設定が必要となり、コスト増につながるので、高速道の利用については経営者の考え方に左右されている。

また、現行の高速利用料の割引制度は、ETC車が午前0時から午前4時の間に通行した場合に3割引となる。深夜割の利用を推奨している事業者は多いようで、パーキングエリアなどではトラックの「0時待ち」と呼ばれる渋滞も発生している。

トラック運送事業の営業費用の約4割は運送に係る人件費であり、ドライバーの収入を上げていくためには、運賃の確保が不可欠と言えるが、コストの価格転嫁が進んでいない実態もあり、多重下請け構造の是正、燃料価格の変動に対応した燃料費回収も求められている。

国土交通省は令和2年にトラック運送業界における「標準的な運賃」を告示、法令を遵守して持続的に事業を行ための参考価格を示した。

運賃上昇は商品への価格転嫁を伴うので、トラック輸送を守るためには一般消費者も含めた理解の広がりが必要だ。

 

今こそパートナーシップ構築宣言を

2024年問題は、中小のトラック輸送事業者がコストダウンのしわ寄せとなり、過当競争が激化した結果とも言え、産業界全体でコストを見直していくきっかけとなる。

全国の商工会議所では、中小企業が持続可能な投資や賃上げを実施するためには、円滑な価格転嫁や下請取引の適正化が不可欠とし、その実現のため「パートナーシップ構築宣言」の普及・促進と実効性向上を強力に推進している。

「パートナーシップ構築宣言」ではサプライチェーン全体の共存共栄が盛り込まれ、例えば原材料費や労務費の上昇で仕入れ先から取引価格の見直しが申し入れられた場合、価格協議に応じるなど望ましい商慣行を築くもの。宣言したことを契機に、下請事業者との適正な取引を含めて経営者や調達担当者の意識が高まった事例なども示されている。

また「パートナーシップ構築宣言」により、サプライチェーン全体で付加価値が向上し、社会全体で成長と分配の好循環を実現することが期待される。今回の2024年問題の解決には「パートナーシップ構築宣言」の理念が大きなカギとなるのではないだろうか。これを機会に「パートナーシップ構築宣言」への賛同の輪を広げていただきたい。

 

 

トラックドライバーの不足が顕著

 

人手不足は業態に関わらず、全産業での課題となっているが、トラック運送事業では運転者不足が特に顕著だ。働き方改革による長時間労働の抑制や処遇改善は、将来の担い手となる若手運転者の確保と定着に向けた取り組みとして重要となっている。

トラックドライバーの有効求人倍率は、全産業の平均を2倍程度上回る状況が続いている。また年齢構成にも偏りがあり、大型トラックドライバーの平均年齢は49.4歳、中小型トラックドライバーの平均年齢は46.4歳と、全産業平均43.2歳と比べて高い。また30歳未満の若年層の割合が低く、このままでは人手不足が更に進行するものと懸念されている。

国土交通省などのまとめでは、トラック運送事業では、他の業種に比べて労働時間が長く、人手不足が常態化、若年ドライバーが少ないなどの構造的な課題が指摘されており、今回の自動車輸送業務に関わる働き方改革は、トラックドライバーの健康と安全な輸送、事故防止を促進するものとなっている。

また厚生労働省は、脳・心臓疾患による労災支給決定件数が、運輸業・郵便業が全業種において最も件数が多いとしており、自動車運転者の過重労働を防ぐことは、労働者自身の健康確保だけでなく国民の安全確保の観点からも重要としている。

 

市内では自動車運送事業者が増加

一般貨物自動車運送事業者は高崎市内でも増加傾向にあり、事業所、従業者とも増えている。従業者数10人から50人程度の事業規模の事業者が多くなっている。高崎マーチングフェスティバルでは、市内の貨物運送事業者が子どもたちの楽器運搬を担当し、大会を支える縁の下の力持ちとなっている。

 

トラックドライバーの働き方改革

高崎地区運送事業協同組合

群馬県トラック協会高崎支部

トラック輸送業ではドライバー不足が続いています。トラック運送業界にとって安全運行は社会的使命であり、対策を強化しコストも増加しています。燃料や資材、車両が高騰し、運賃の値上げを取引先にお願いしても「うちも大変です」と言われてしまうのが実情です。2024年問題では、残業時間が制限されることでドライバーの収入が下がり、離職により、更にドライバーが減少し、輸送量が減少してしまうのではないかと心配されています。

ドライバーを数多く抱えている大手事業者は2024年問題に対応できるでしょうが、中小事業者は対応が難しい状況もあります。組合員の方々に取り組んでいけるようにセミナーも実施しました。

トラックドライバーの勤務時間は、いわゆる9時〜5時のサラリーマンとは違っています。客先に合わせた納品時間や、高速道の夜間割引などを考えて運行します。

ドライバー不足の対策として、若手の育成、定着が重要です。仕事に必要な運転免許は会社負担で取得させる事業所も多いようです。中型免許は普通免許2年以上、大型免許は3年以上となり、免許取得まで時間がかかります。

荷物の重量バランスを考えながら荷積みをし、荷崩れしないように細心の注意を払って安全運転をしています。誇りを持っており、大型トレーラーの操作は熟練技です。

物流は空気のような存在で、災害時に支援物資を輸送する時には意識してもらえますが、すぐに忘れられてしまう。送料無料などという広告を見ると悲しい気持ちになります。

働き方改革と業界の魅力づくりに取り組み、社会インフラとしての責務を果たし、地域社会の発展のために貢献していきたいと考えています。2024年問題に対応するには皆様のご理解が不可欠です。ご協力をお願いします。

(高崎地区運送事業協同組合・川手義昭理事長、群馬県トラック協会高崎支部・山田雅夫支部長

・津久井 真次 事務局長)

 

 

健康と安心・安全、信頼のコストを

みつわ運輸株式会社

轟 英治 社長

2024年4月から年間残業時間が960時間に制限されるなどの改善基準が施行となります。1カ月平均80時間となり、他の業態から見ると残業の多い仕事になるでしょう。

2024年問題は輸送業界だけでは解決できません。コンプライアンスを守っていく姿勢をお客様に伝えていく良い機会になると思います。

コストダウンできるところは既に取り組んでいます。関連法令を守り、安全に時間通りに積荷を届け、ドライバーの健康を守ることは企業の責務であり、取引先にもご理解をいただけると思います。

現在は、運行記録計(タコグラフ)の記録を見ながら、休憩時間の取り方や荷待ち時間、運行の状況をドライバーと検証しています。

ドライバーは大きなトラックを運転しているので、疲労により集中力が低下した場合の結果は、机に向かって仕事をしている労働とは違います。安全の確保にはコストがかかり、お客様の信頼に応えるためにも、しっかりと取り組んでいきたいと考えています。

待機時間やドライバーによる荷役作業などは、これまで続いてきた商習慣です。また、過当競争で運賃が下がり過ぎて、安全の品質が犠牲になっているケースもあると思います。トラック業界の未来のためにも、安全にかかるコストを皆さんに理解してもらい、選択していただきたいと思います。

ドライバーは足りない状況ですが、20代、30代の若い社員も採用できています。大型トラックを運転し、やりがいと収入を増やしていきたいと意欲的に取り組んでいる社員もいます。地元の企業と積極的に連携し、地域の発展に貢献していきたいと考えています。

 

高崎商工会議所「商工たかさき」2023年10月号

 

 

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