私のブックレビュー12

『文房具56話』

志尾睦子

串田 孫一著
ちくま文庫
             
ポケットに忍ばせる小粋な文化論書

 文房具といえば、老若男女だれからも、必ず毎日使われているもののような気がします。考えを巡らせてみたのですが、家でも、学校でも、会社でも、お出かけ先でも何かしらを持ち、使っているのは確かなようです。

 オフィスで何の気なしに共有している文具もあれば、少しの違いが自分にとっては大問題になる文具もある気がします。私の場合、付箋にメモ書きするには水性の細書きペンが使いやすいとか、手帳に書き入れるには少し重みのあるこのペンでないと気分が乗らない、ということがあります。強いこだわりがある訳でもないのですが、筆記具、文房具一つで、気分が左右されるのは事実で、どうも気になる存在です。

 さて、本書は文房具にまつわる随筆集です。使い勝手についてあれこれと説明してあるわけでも、機能紹介するわけでもなく、文房具にまつわる著者自身のエピソードが綴られます。文房具のひとつひとつについて、感じたこと、それに関する知識や情報、それらにまつわるエピソードが一項目2、3ページでまとめられます。初版が1978年というから40年近く前の本です。発刊当時は48話で、その後4話足し、更に数年後4話足し、で今の56話になったようです。まるで納品書を見るような、品目名が並べられた目次に時代を感じながらページをめくりました。

 「帳面」、「ペン先」、「消しゴム」、の次が「ぶんまわし」。ぶんまわしってなんだろうと、最初はわかりませんでしたがコンパスのことでした。中には「抽斗」までありました。文房具の仕舞い場所として紹介される抽斗のエピソードは何とも洒落っ気が利いています。「文房具店にない文房具」の項目では、著者の筆立てや引き出しの中にある文房具とは言いがたいけれども、使う頻度の高いものを紹介しています。戦争中に文具が入手出来なくなった時に代用品としてあれこれ工夫して使っていたものなどがあげられています。文房具屋にない物を自分専用の文房具に変身させる愉しみを著者は語っていて、なるほどと感心しました。

 気軽にどこからも読めそうだし、ちょっとの気分転換にいい本だと思って手に取ったのですが、侮るなかれ、でした。読み進めるうちに、戦争がもたらした生活の変化、物のなかった時代の人々の知恵に触れることになりました。文房具エピソードの最後の項目はなんと「文化を守る力」。文房具には文化を守ろうとする抵抗があったと締めくくる著者の言葉に、とても深い文化論を読んだ気になりました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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