ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.52

体操しようよ

志尾 睦子

2018 1時間49分
監督:菊地健雄  
出演:草刈正雄/木村文乃/きたろう

ラジオ体操はやさしさを連れてくる

 7月になりました。もう直ぐ夏休みです。私にとっての夏休みの思い出は、近所の公民館に集まる毎朝のラジオ体操でした。行きたくないと駄々をこねる日もありましたが、首からぶら下げた参加カードにハンコが押されないマスが出てくると思うと、いかねばと言う気持ちになったものです。私自身は、朝から元気におしゃべりできるような子ではありませんでしたが、体操の輪に入る時や、ハンコをもらうために並んだ列で、「オハヨウゴザイマス」と声を出すことは、その1日の難関でもあり、小さな喜びに通じる窓でもあった気がします。

ラジオ体操を始業に取り入れていらっしゃる企業様も多いと思います。健康のため、は言わずもがなですが、体操が場と時間を共有する体験となり、それこそが大切な感覚を養うのだと、今振り返って思えます。今回はそんなラジオ体操をモチーフにした映画をご紹介します。

 佐野道太郎は60歳になり、無遅刻無欠勤で38年勤め上げた文具会社を退職しました。娘の弓子が12歳の時に妻が他界。弓子は働き盛りの父のため、その時から家事一切を引き受け成長したしっかり者です。父のために家庭を守り抜いてきた弓子も今や30歳。娘も立派に成長したと感慨深くもあり、これからは悠々自適な生活を送ろうと考えていた道太郎でしたが、「これからの佐野家の主夫はお父さんです。」と、突然弓子に“主婦引退宣言”をされてしまいます。

 当たり前に娘に頼ってきた道太郎にとってこれは青天の霹靂。家事は愚か、ご近所付き合いも、地域のことも何も知らない道太郎は何をするにも失敗の連続。几帳面だった自分の性分などどこかへ行ってしまい、数日で何もせず飲んだくれる日常になってしまいます。弓子はそんな父の姿にイライラしながらも、自分の人生を守るためにも、その自立を見守るしかありません。そんな時、元上司が道太郎を朝のラジオ体操に誘ってくれるのです。

 決まった時間に出かける。目的を持った道太郎は次第に生活リズムを取り戻していきます。そして初めはただ体を動かすだけ、会釈だけだった短い時間は、人々と会話をし共に日々を過ごす時間へと変化していきます。出会いがあれば別れもあり、仲違いもあり、仲直りもある。大切なのは、人と同じ時間を共有し、人の気持ちに寄り添うことだと道太郎は気づいていきます。

 小さな共有時間が、人の人生を交わらせ、誰かの背中を押すこともある。そんなことを優しく穏やかに描き出した一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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