石碑之路 散歩風景7

吉永哲郎

 山名城址への分かれ道から50mほど歩きますと。大沢雅休書「さゝのはゝみ山もさやにさやけども我は妹おもふわかれきぬれば」の柿本人麻呂の万葉歌碑があります。

 碑文はこの歌の詞書に「柿本朝臣人麻呂、石見国より妻に別れて上がり来るときの歌二首并せて短歌」とあります。

任地の石見国(現島根県)から奈良の都へ帰る途中で、任地で慣れ親しんでいたいとしい人との別れにたえかねて、その思いをこめた長歌に添えた反歌です。都へと、はやる気持ちとはうらはらに、いつまでも共に生きたかった人との思いが強く心に渦巻き、その時、愛しい人の物静かな話しぶりを思わせる声が、クマザサの葉擦れの音に似て、はっとさせられ、その瞬間を詠みこんだ歌、と私は思います。

 詞書の「妻」、歌の「妹」と重ねて人麻呂の妻のこととする考えもあります。任地先に妻を置いたまま、自分一人で奈良へ帰るのか、といった疑問がおこりますが、この「妻・妹」には親しくしていた人という意味にとります。現地妻と、うがった解説もありますが、私は万葉人の人を思うこころを表現した、抒情性あふれた歌と考えます。いとしい人との別れの悲しい気持ちを凝縮した歌だと鑑賞します。

 ちょっとお静かに!クマザサの葉擦れの音が聞こえてきませんか。イノシシやクマの忍び寄る音ではありません。物静かな人のささやきに似ていませんか。ほら!すぐそこに、あなたの後ろに佇んでいますよ。などと幻想的な時間を過ごせる、碑の前の空間です。

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