ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.15

百円の恋

志尾 睦子

2014
監督:武正晴
主演:安藤サクラ

ジメジメを吹き飛ばす完膚なき戦い

 梅雨の時期となりました。雨が続くと湿気も手伝い、ジメジメとした気候になりますから、どうしても気分までそこにひきづられてしまう、なんてことも少なくないと思います。仕事も立て込む中でそんな気分が続くのも考えものですね。さて、そんな時には、パンチの効いた映画で身も心もリフレッシュしてパワーチャージといきたいところです。
 本作の主人公は32歳の一子です。いわゆる引きこもりの一子は、お弁当屋を営む実家の手伝いをすることもなく、日がな一日自室に籠っています。離婚し子連れで実家に戻って来た妹の二三子は店を手伝う働き者。二三子の息子とテレビゲームに興じ、夜になると百円コンビニに出かけては買い食いをしている自堕落な一子に、二三子はいつも手厳しくあたります。一子もこのままではダメだとわかってはいるのですが、締まりのない身体に卑屈な精神が増幅し、荒んで行く一方という感じです。そんな一子はある日、近所のボクシングジムで寡黙に練習をする狩野の姿を目に留めます。それから一子は時々、ジムに足を向けては狩野の姿を遠くから見つめるようになりました。
 そんな中、一子はいつものように二三子と言い争いをした挙句、見かねた母親から強く叱責され、とうとう家を追い出されてしまいます。どうにか一人暮らしを始めた一子は通っていた百円コンビニで職を見つけました。うつ病で仕事がままならない店長、セクハラ男の先輩バイト、本部からやってきた横柄な上司、廃棄品を狙いに来る元店員など、何かと問題の多い人たちの中で、一子は久しぶりの社会生活を開始。すると、店にあの狩野が現れます。ひょんな事からデートをすることになった2人でしたが、恋心を抱く一子に対し、狩野の真意は別のところにありデートは最悪な感じで終わってしまいます。それでも狩野の引退試合を見に行く機会を得た一子はそこでボクシング自体に魅了され、自身が始めることを選択します。
 かくしてボクシングジムに通い始めた一子は、無謀にもプロボクサーを目指すのです。32歳は受験資格の期限となる年齢。周囲の反対も押し切り彼女はその道に邁進していきます。
 そこからは一子の人生が加速度的に大きく動き出します。ダメ人間・一子が初めて自分から動き手にした人生のカタチは、強力なパンチ力を持っています。一子演じる安藤サクラの女優魂にもノックアウトされてしまい、見終わる頃にはモヤモヤもジメジメも綺麗に吹き飛んでいることでしょう。

高崎商工会議所『商工たかさき』2018年6月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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