ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.16

河童のクゥと夏休み

志尾 睦子

2007年
監督:原 恵一

河童と過ごす夏の思い出

 今年は例年より梅雨明けが早く、暑い暑い夏がやってまいりました。気候に負けず、気持ちも熱く仕事に生活に精を出せるといいですね。今年はみなさんにとってどんな夏になるのでしょうか。
 さて、今月はご家族揃って観ていただけたら嬉しい、夏らしい映画をご紹介します。館林市出身の映画監督・原恵一さんのアニメーション作品で、前橋市出身の児童文学作家・木暮正夫さんの同名作を原作としています。
 時は江戸時代、竜神沼に住む河童たちは、干拓を推し進める人間たちによって、住むところを奪われる危機に瀕していました。ある夜、武士と名主が共謀を企てる最中、河童は干拓をやめてほしいと懇願に行きます。しかし、武士は悪巧みを河童に聞かれてしまったと逆上し、刀を抜いてしまうのです。子河童は、父河童が斬られるところを目の当たりにしますが、直後に大きな地震が起き地中へ飲み込まれてしまうのでした。
 そして時は現代へ。東久留米市に住む小学生の上原康一は、夏休みを控えたある日、同級生と小競り合いとなり靴を川辺に落としてしまいます。拾いに行った川辺で大きな石につまづいた康一は、その石に奇妙なものが挟まっていることに気づき、家に持ち帰りました。なんとその石には、干からびた河童が張り付いていたのです。水を与えられて甦ったその河童を康一は「クゥ」と名付け世話をします。300年もの間、石に挟まっていたクゥは今の状況が飲み込めず、人間に警戒心を抱きますが、心優しい上原家の皆と触れ合ううちに少しずつ元気を取り戻して行きます。
 夏休みに入った康一は、クゥのために仲間の河童を探そうと、河童伝説の残る岩手県遠野に出かけますが手がかりは何も得られません。意気消沈するクゥに追い討ちをかけるように、マスコミがクゥの噂を嗅ぎつけて大騒ぎにもなっていきます。
 少年と河童が過ごすひと夏の物語、なのですが、その中に散りばめられているのは深く普遍的なテーマです。浮かび上がってくるのは、人間のエゴや欲とともに変容してく自然環境や社会構造。そこには、社会を作り出す大人として気づかされることが多々ありました。人間の恐ろしさと豊かさを垣間見ると同時に、新しい明日は、いつでもだれかの勇気で作り出されるんだということにも気づかされます。
 アニメーションならではの世界観もさることながら、日常がいかに壮大でドラマチックなのかを丁寧に描いた作品ともいえます。夏の活力の一助となれば幸いです。

高崎商工会議所『商工たかさき』2018年7月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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