ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.30

日々是好日

志尾 睦子

2018 日本 100分
監督:大森立嗣
出演:黒木華/多部未華子/樹木希林
   
「タダモノじゃない」人に学ぶ

 9月に入った途端に涼しくなりました。そして今年も残り少なくなってきたなと実感しています。年始や年度始めに立てた達成目標が計画的に進行しているか、あるいは計画に無理はないかを今一度振り返る大事な時期でもありますね。時間が十分にあるときはいいのですが、時間が限られてくれば来るほど物事を合理的に進められる方法を探したくなります。ですが時としてそれを優先しすぎて大事なことが見えなくなることもあります。一見不合理と思えることや手間のかかることだとしても、それを実践している人がいる場合、私はそこに従ってみることにしています。自分で新しい道を探すのも一手ですが、やはり先人から学べることは多いものです。さて、今回はそんな視点から素敵な映画をご紹介します。
 主人公は二十歳の女子大生・典子です。一生続けられる仕事を見つけたいと思ってはいるものの、これといった答えが出ないまま大学生活を送っています。ある日、典子は母から突然「お茶でも習ってみたら?」と持ちかけられます。その場にいた同い年の従姉妹・美智子の方がすっかり乗り気になってしまい、ご近所で「タダモノじゃない」と噂される茶道教室の武田先生の元へ、二人は毎週土曜日お稽古に行くことになりました。初日から、とにかくお茶の作法に則って体を動かすよう言われる二人は、初めてのことに戸惑うばかり。角と角を合わせてきちんとたたむ帛紗、「こ」の字で拭き浄める棗、「の」の字で抜く茶筅に、「ゆ」の字で拭く茶碗。畳一帖は六歩で歩くルールも何もかも、彼女たちにはなぜだかの説明もなく、ただ作法として伝えられます。「形式主義だ」と反論する美智子を前に武田先生は、意味なんてわからなくていい、まずは形が大切だと説きます。形をつくっておけば、その入れ物に後から心が入ってくるからと。
 こうして始まったお稽古は、季節の移ろいとともに進みます。24節気を意識した時間の流れの中で、典子のゆっくりとした、それでも確実な成長の記録が映し出されます。学生生活、就職活動、同い年の従姉妹の結婚や、家族の事情など、様々な出来事とともに典子のお茶の道は続き、いつしか典子は「日々是好日」の真意を会得していきます。長い年月をかけたからこそ見えてくる景色は、十分な説得力がありました。武田先生を演ずる樹木希林さん無くしては成立しなかった世界観であることも、見どころの一つです。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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