ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.31

ちいさな哲学者たち

志尾 睦子

2010年 フランス 1時間42分
監督:ジャン=ピエール・ポッツィ/ピエール・バルジエ


思考することを恐れないために

 秋が深まってきました。残りの数ヶ月をどのようなペースで仕事をするのか、達成目標をクリアするために何が必要なのか、と様々な条件をもう一度洗い直して仕事をする時期でもありますね。そうした時こそ必要なのが、あらゆる角度から事物をじっくり考えるという作業です。つらつらととめどなく思考を巡らせていきながらたどり着くまで考えてみるには時間が必要です。忙しいビジネスパーソンにはそうした時間を普段から捻出するのは難しいと思いますが、秋の夜長がその機会に後押しをしてくれるかもしれません。何をするにも考えることからは逃れられませんが、そこにも品質がありそうです。質の高い思考をするためには、意識的に思考する時間が必要不可欠と言えそうです。
 そんなふうに思うきっかけになった一作を今回はご紹介します。本作は、2007年から2年間に渡ってフランスの幼稚園で撮影されたドキュメンタリーです。パリ近郊の教育優先地区ZEPにあるジャック・プレヴェール幼稚園で行われた哲学の授業を捉えたものです。哲学先進国と言われるフランスでも、教育カリキュラムで哲学が取り入れられるのは中学生以上だったため、撮影当時は世界初の試みとして注目されたようです。
 さて、カメラは初めての授業風景から始まります。教室で園児たちを前に哲学の先生がロウソクに火を灯すのですがこれが授業の始まりの合図。哲学ってなんだろう? という問いかけからこどもたちの思考の時間が始まります。最初は授業自体が10分と持たないこともしばしばだったのが、季節を追うごとに子供達が自発的に発言をするようになります。
 どれもこれもまず、問いがあり、それに対して返答していくことから哲学は始まります。友達ってなに? 愛ってなに? 自由ってどういうことなの? 自分の頭で考えて、自分の言葉で発言をしていく。子どもたちの出生や家庭環境も様々ですから、肌の色が違ったり、家庭内の様子がお友達と違ったりすることに彼らは話ながら気づいていきます。そして、問いかけに対して考えをめぐらせます。貧富の差、人種差別、男女の性別など多岐にわたるテーマについても小さな子どもたちは純粋に感じたことを答え、そこで疑問がわけばまた質問をし、どんどん考えを深めていきます。
 知識があることより先に、思慮深くあることの意義を子どもたちの姿から感じることができました。そして思考の根っこには哲学を持つことが重要なようです。それがどういうことかは、「ちいさな哲学者たち」が教えてくれるはずです。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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