ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.35

滝を見にいく

志尾 睦子

2014年 監督:沖田修一
出演:根岸遙子/安澤千草/荻野百合子/
桐原三枝/川田久美子/徳納敬子/渡辺道子

ピンチがチャンスに変わらなくても良し

 先日、山となった仕事量を前にさらなる問題点が浮上して切羽詰まった状況に追い込まれました。トラブルやピンチに見舞われた時、どういう気持ちで臨みどう動くかも、ビジネスパーソンにとって大事なスキルです。尊敬している仕事仲間は、急いで対処しなければならないものほど、冷静沈着に一度寝て時間を置いてから行動する、と教えてくれました。それ以来1人の時にはそれを実行しています。そして誰かと一緒の時はまずその場の空気を変えることを心がけます。事態が良くなるとも限らないのですが、深刻な状況のときほど、気持ちの持ちようを変えるのは案外悪いことではありません。そのヒントを教えてくれた映画を今回はご紹介します。

 主人公は7人のおばちゃんです。季節は秋。温泉付き紅葉ツアーに参加した7人を乗せてバスは山へと向かいます。旅のスタートは紅葉を楽しみながら幻の滝を見に行くという山散策。ガイドさんと一緒に山へ入ったおばちゃんたちですが、先を歩いていたガイドさんが突然姿を消してしまいます。待っても来ない、電話も通じない。7人は山で完全なる迷子になってしまいます。じっとしていても助けはこないから、とにかく山を降りる道を探そうと動き出します。友達同士もいますが1人で参加の人もいて、互いの性格も境遇もわからないまま7人はとにかく一緒に歩みを進めていくしかありません。

 状況としてはかなり深刻です。最初は皆オロオロしたりイライラしたりと力を合わせるどころかその輪を乱す人もいるわけですが、そんな時に場の空気を変える人が出てきます。歌い出したり、自分の過去をポツポツと話し出したり、他の人のいいところを発見したり。自分1人では塞がってしまう蓋が、人との摩擦で開いていく。そんな小さな展開が、それぞれの潜在的な生命力を引き出していきます。

 彼女たちがどんな人たちなのかは、会話の中から漏れ聞こえてくる程度で、総称してしまえば皆「ただのおばちゃん」です。そんなおばちゃんたちが山で迷子になって一夜をどうにか過ごす。そこには特別なひらめきがあるわけでもなければ、さすがと言える展開があるわけでもない。何かが解決されるわけでもそれぞれの人生が劇的に変わるわけでもないのだけれど、それ事態を楽しんでしまう能力を人は持っているのかもしれないということに気づかされます。ピンチがチャンスに変わるわけではないけれど、誰にでも前向きになれるポテンシャルがある、そんなふうに思える一作でした。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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