ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.37

クジラの島の少女

志尾 睦子

2003年 ニュージーランド=ドイツ
監督:ニキ・カーロ
出演:ケイシャ・キャッスル=ヒューズ


運命と自分の人生を結びつけるために

 新年度が始まりました。今年は新型コロナウイルス禍に見舞われる環境下でもあり、様々に対応をせねばならない状況となりました。日々の生活を守ることの大事さを痛感しながら、とにかく出来ることをやっていくしかないと思う今日この頃です。なかなか「通常と違うこと」は受け入れるのに時間がかかりますが、状況や環境が違っても、すべきことは意外とシンプルでそこを見失わなければ道は拓けていくとも感じています。そう思った時にふと思い出したのが今回ご紹介する作品です。

 舞台はニュージーランド、マオリ族が住むファンガラ村。海辺の小さな村には、かつて勇者パイケアがクジラに導かれてこの地を踏み、そこから始まったという伝説がありました。マオリ族はそのパイケアの子孫であり、この村を治める族長は代々その村の選ばれし勇者である男と決められていました。現族長コロの長男・ポロランギも後継者として育てられた一人。結婚したポロランギはすぐに男女の双子を授かるのですが、不幸にも出産時に妻と男児が命を落としてしまいます。受け入れがたい悲しみと、罪の意識に苛まれたポロランギは、一人村を去り、パイケアと名付けられた女の子は、祖父母によって育てられました。コロにとっては、パイケアは男でなければならない存在で、複雑な思いで孫との時間を紡ぐことになります。そしてパイケア自身もその事を感じ取って成長していくのでした。

 村の子どもたちが12歳になり、新たな後継者を探そうとコロは男児を村の集会所に集めてマオリの文化を継承する学校を開きます。パイケアは女であるがゆえに、祖父からそこへの通学を許されません。しかし、どうしてもマオリの文化を継承したいパイケアは内緒で叔父たちの力を借り、伝統的な歌や踊り、そして代々部族の男にしか継承されない武術タイアハの特訓を一人続けるのでした。

 長い年月をかけて守り抜いてきたものには純度と強度があります。それを継承するには一定の条件が必要ですが、時としてそれがそぐわないことも出てくる。その時、そこにどうやって向き合っていくのか。必要不可欠な条件を受け入れることも、受け入れないことにも、どちらにも真がある気がします。大切なことは、その運命と自分の人生をどう結びつけていくのか、なのかもしれません。族長コロ、ポロランギ、パイケアそして祖母や村の人それぞれの選択に、人生に向き合うためのヒントが隠されている気がしました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

高崎の都市力 最新記事

  • 株式会社環境浄化研究所
  • シネマテークたかさき
  • ラジオ高崎
  • 高崎市
  • 広告掲載募集中