ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.41

365日のシンプルライフ

志尾 睦子

2013年 フィンランド 80分
監督・脚本・出演:ペトリ・ルーッカイネン

自分ととことん向き合う方法

 世の中が変わっていくのを、誰もが1日ごとに肌身に感じながら過ごしている今日この頃。平穏な社会を保つために大切なことは、さまざまな制限と個々の健やかで穏やかな心身にある気がします。自分自身の生き方と思考方法を整理し自覚していくことが、精神的な強さにもつながるのだと、今改めて思っています。今回は、そんな気づきをくれる一本をご紹介します。

 冒頭映し出されるのは雪の積もるヘルシンキの静かな夜。そこに全裸の男が現れます。彼は街中を走り抜け、ロッカールームにたどり着くとそこから一枚のコートを取り出し身に纏います。この人物がこの映画の主人公なのですが、彼は脚本家であり監督でもある。つまりこれは自分自身を映し出したドキュメンタリーなのです。

 彼の名はペトリ・ルーッカイネン。フィンランドに住む26歳の青年で「人生で必要なものは何か」を探すための実験を始めました。ルールは4つ。1:自分の持ちモノ全てを倉庫に預ける。2:1日に1個だけ倉庫から持ってくる。3:1年間続ける。4:1年間、何も買わない。冒頭のシーンは1日目の行動です。彼がこの実験に至ったのは、3年前の失恋に遡ります。当時の彼は、ヤケになりその悲しさを晴らすために欲しいと思ったものをすぐ買うという行動に出ます。買えばなんでも手に入りモノに囲まれることで気持ちが満たされていく。それが幸せだと感じていたペトルでしたが、3年後モノで溢れかえった部屋に住む今の彼は、心が空っぽで虚しさに苛まれていました。なぜ幸せだと思えないのか。それを知る必要がある。そう思った彼は考えるための“場所”をまず作ろうとしました。それが実験です。自宅アパートの近くに倉庫を借りて全ての荷物を入れ、ルールに則り1日を過ごす。その日々をカメラに収め、自らの葛藤を吐露し、自身の幸せがどこにあるかを検証していきます。

 1日に一つしか取り出せないから、何を持ってくるのかを吟味し、買えないから、必要なものをどうやって手にするかを熟慮する。当然周辺の日常は動いていますから、家族や友達、そして新たな出会いもある。自分の内側と向き合う時間を取れば取るほど、ペトリは外側の世界と新しい関係を築き繋がっていくように見えました。特におばあちゃんとの関係性には深く感じるものがあります。

 モノをリセットする方法を、頭のごちゃごちゃや、心のもやもやに置き換えてみるのも一手だなと思った次第です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

高崎の都市力 最新記事

  • 株式会社環境浄化研究所
  • シネマテークたかさき
  • ラジオ高崎
  • 高崎市
  • 広告掲載募集中