ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.40

しあわせの雨傘

志尾 睦子

2010年 フランス 監督:フランソワ・オゾン
出演:カトリーヌ・ドヌーヴ/ジェラール・ドパルデュー


ニューノーマルな時代を作るのは誰か

 2000年代後半からの世界金融危機の際、金融業界から生まれたニューノーマルという言葉は、コロナ禍によって社会全体のキーワードになりました。これまでの社会構造ががらりと変わり、新しく機能する社会構造を構築し常態化していく。こうしたことは、身近に置き換えると意外とたくさんあるものですが、その根幹がどれだけ大きいかによってその難易度は上がります。未知数だからこそ、この転換を前向きに捉えたいと思う今日この頃です。

 さて今回は、そんなニューノーマルの転換期にこそお届けしたい、社会の縮図を身近な問題として鮮やかに描いたフランス映画です。

 フランスの名女優カトリーヌ・ドヌーヴ演じるスザンヌが本作の主人公です。彼女はいわゆるブルジョワの社長夫人。夫は雨傘工場を経営していて亭主関白、嫁いだ時から彼女が経営や運営に参加することはありませんでした。専業主婦として家を守り、不自由もなく穏やかに日々を過ごしています。

 工場では過酷な労働条件に従業員たちが反旗を翻したりストライキを講じたりと衝突があっても、スザンヌは蚊帳の外。そんな時、夫が突然心臓発作で倒れてしまいます。いきり立っている労働組合員たちを前に誰が社長代行として話を聞くのか。誰もやりたがらないその役に白羽の矢を立てられたのがスザンヌでした。何もわからないからこそ、彼女は素の自分で彼らと向き合い始めます。社員を愛し家族のように思うこと、おしゃべりを楽しむこと、明るい気持ちで仕事をすること。彼女の素直な感覚はこれまでの会社には全く存在しないことでしたが、これが次第に功を奏していきます。何も出来ないと決めつけている娘や周囲の人々の思いをよそに、彼女は自分が大切にして来たことをただ素直に進めていくのです。こうでなければならない、こういうものだ、として来た社会的常識が、歪みを起こしていくことに気付いても、誰もがそれを止められない。そんな会社の仕組みに風穴を開けたのは、違う世界の常識を持ち込んだ人、つまり社会を知らないと思われていたブルジョワ主婦スザンヌだったわけです。

 スザンヌは社長夫人として一見幸せな生活を送って来た女性に見えますが、彼女もまた様々な社会的価値から一側面へと虐げられて来た人でもある。それに気付いて花開く熟女の新しい人生に注目したいところです。誰視点でこの映画を追いかけるかによっても、見え方が違ってくるバラエティに富んだ一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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