ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.39

記憶にございません!

志尾 睦子

2019年 日本  監督:三谷幸喜
出演:中井貴一/ディーン・フジオカ/石田ゆり子/草刈正雄
   

ピンチにやり直しの一手を掛けてみる

 新しい生活様式を取り入れながらの日常が少しずつ動き出しているのを感じるこの頃。今までのやり方に近い形をいかに取るか、という考え方も一つですが、これを機に全く違う方法論で新しい道を進むチャンスと捉えることもできます。とはいえ、物は考えよう、とわかっていても現実を前にするとなかなかそれを受け入れるのも難しいものですね。

 さて、それに加えて梅雨にも入り、気候も気分もジメジメしそうな時期。こんな時には、楽しいコメディ映画で思い切り笑い飛ばすのがリフレッシュには最適です。今回は、難しい示唆は横に置いて、楽しめる一作をご紹介します。

 ある男が病院のベッドで目を覚ますところからこの物語は始まります。ここがどこで、自分が誰かわからない彼は、病院をこっそりと抜け出し夜の街を彷徨います。どうやら人は自分のことを知っているようで、何かと難癖をつけられてしまいます。腑に落ちないまま、入った食堂のテレビには、昼間に総理大臣が演説中に投石を受けて倒れた様子が報道されていました。そこで彼は、自分がこの総理大臣らしいことを知るのですが、何しろ彼には一切の記憶がない。そうこうしている間に、お迎えがやってきて官邸に連れ戻されてしまいます。

 この男は黒田啓介。第百二十七代内閣総理大臣であり、国民から史上最悪のダメ総理と言われていました。傲慢、身勝手、政治を自分都合に利用する腹黒い男と批判され、そんな黒田の常套句は「記憶にございません」ときていました。もちろんこれは、悪事を切り抜けるためのでまかせだったわけですが、今度は本当に記憶を失ってしまったというわけです。このことが知れれば、国中が大混乱に陥ると考えた黒田の側近たちはトップシークレットとしてこれを隠し通そうとします。

 最初こそ、これまでの形を維持するための秘密と考えていた側近たちですが、黒田の様子の変化に次第に考え方を変えていきます。裏金工作も、水面下で進めていた利権政策も、黒田にとって身に覚えのないこととなった今、黒田は自分がしでかした悪事に一つずつ、率直な気持ちで向き合っていくのです。

 原点に立ち戻ることの大事さ、素直になることの素晴らしさなどが皮肉と笑いの中にちりばめられます。面白おかしく軽快に描かれた黒田の人生の軌道修正は見応えがありますが、そこに人間の真の強さを滑り込ませるあたりが、さすが三谷幸喜の脚本・監督作と頷けます。芸達者な役者陣の名演も見所満載です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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