ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.65

ペコロスの母に会いにいく

志尾 睦子

2013年 1時間53分
監督:森﨑 東
出演:岩松了/赤木春恵

想いを寄せることで人生が見えてくる

 いつもは祭囃子があちこちから聞こえてくる時期ですが、今年も去年に引き続いてその音がありません。引き続くコロナ禍で、なんだか暑さが一層増していく気がしますが、今が辛抱期、来たる時のために体力を蓄え、夏気分の構築だけは忘れないようにしたいと思っています。夏といえば、お墓参りも大切な夏行事ですね。私はいつもお墓参りに行くと元気が出ます。家族や大切な人たちが頑張れとエールを送ってくれるからなのだと思うのですが、手を合わせるその時は、やはりその人たちが過ごした人生に想いを寄せる時間でもあります。世知辛い世の中色々ありますが、誰かの生きた時間を、自分の生きる時間に照らしていくと、気づくこともあったりして、いい時間だなと思います。

 さて、今回はそんな風に、「誰かに想いを寄せて」生きることの大切さと、温かさを描いた一作をご紹介します。

 ヒゲちゃびんのボク・岡野ゆういちと、その母・みつえ親子がこの物語の主人公です。ボクと言ってもゆういちは60歳を過ぎたバツイチで、漫画の執筆と音楽活動を続ける自由人。頭の形が小型玉ねぎのペコロスに似ているという理由で「ペコロス岡野」と名乗って活動していますが、それだけでは食えないのでサラリーマンもしています。でも会社の仕事にはあまり精が出ず、今は長崎の実家で母・みつえと暮らしています。みつえは10年ほど前に夫・さとるを亡くしてから認知症が進行し、最近ではその症状がひどくなっていました。明るく前向きなゆういちは、そんな母との暮らしもマイペースでなんとか乗り切ってきたのですが、いよいよ自宅介護は限界なのかもしれないと、施設に預けることにします。

 ゆういちは、自分の不甲斐なさを嘆きもしますが、施設に足を運び、いつも母の事をそばで見守り続けます。過去のことをよく話すみつえの話に耳を傾け、その生涯に想いを寄せるのです。女学校時代のこと、仲の良かったちえこのこと、妹たちのこと、長崎の原爆のこと、ゆういちの父でありみつえの夫・さとるのこと……。時折自分のことを忘れてしまう母の姿に切なさを感じながらも、ゆういちは母・みつえが生きてきた証とその想いを、自分の中に留めていきます。

 ただ相手の想いに、自分の気持ちを寄せていく。簡単なようでなかなか出来ない事だと気付かされます。「ボケるとも悪か事ばかりじゃなかかもしれん」今を生きるみつえに寄り添うからこそ生まれる言葉に胸が熱くなりました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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