銀幕から生まれた昭和の映画女優8

野に咲く美しい花―歌う映画女優 -倍賞 千恵子-

志尾 睦子

 映画に縁のない少女時代を過ごした私でも、映画の役名で知っていた名前が二つある。寅次郎とさくらだ。言わずと知れた山田洋次監督作品「男はつらいよ」シリーズは、映画館に行かない人でも、もとい子どもから大人まで国民の誰もが知っていたのではないだろうか。『さくら〜』と呼びかける寅次郎の声も、『お兄ちゃん!』とダメ兄貴をたしなめるように、それでいて愛情たっぷりなさくらの声も、映画そのものを見るより前から知っていた気がする。
 倍賞千恵子といえばさくら。1969年に開始した「男はつらいよ」シリーズは全48作品を数える。同じパターンで繰り返されながら飽きのこない映画に仕上げるというのは、格段にレベルの高いことである。シリーズ作のメリハリを担うのは、全国津々浦々の景色と、そこで寅さんが出会うマドンナ。物語を底支えするのは定番化された故郷の下町・柴又での人情溢れる生活だ。そこを彩る人物たちは、日々慌ただしくも堅実に、辛いことも悲しいことも丸々抱えて明るく生きようとする庶民だ。マドンナが高嶺の花なら、さくらは野に咲く美しい花。倍賞さん演じるさくらは、そうした身近にいる、安心感を与えられる存在なのだ。寅さんシリーズで人気を不動のものとした倍賞さんだが、伏線は、その前にできていたようにも思う。
 映画デビューは1961年に遡る。1960年に松竹歌劇団へ入団した倍賞さんは、松竹映画にスカウトされる形で映画界へと入っていく。デビュー作は『斑女』(1961年/中村登監督)。翌年に歌手としてデビュー、「下町の太陽」はヒット曲となった。それを受け、1963年に『下町の太陽』は映画になり、倍賞さんは主人公の寺島町子を演じた。当時盛んに作られた歌謡映画の中でも印象に強い一作だ。劇中で披露する伸びやかな歌唱力はさることながら、私などはその歌う姿に見惚れてしまったものだ。浮き足立つことなく、地道に生活を謳歌し、太陽のように周りを照らし明るく快活に生きる女性・町子を、こんな風に表現するとは映画は奥深いものだと味あわせていただいた。
  『下町の太陽』は山田洋次監督のデビュー間もない頃の作品。ここから女優・倍賞千恵子と監督・山田洋次のコンビが始まった。寅さんシリーズを含め60本以上の名作を生み出したのだから、この時の出会いが、どれだけ大きかったのかわかるというものだ。
 大衆に愛される歌う映画女優・倍賞千恵子の立ち位置は、今後も誰一人代われるものではないのだろう。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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