45.高崎新風土記「私の心の風景」
初冬の山里風景―倉渕の野仏―
吉永哲郎
野道の雑草が枯れて、歩きやすくなる初冬の穏やか小春日和に、何となく山里を歩きたくなります。芭蕉の『奥の細道』ではありませんが、「そぞろ神」に誘われるのでしょうか。こうした時、私は野仏の里倉渕をよく訪ねます。ご存じのように倉渕は、野仏、それも道祖神像が沢山ある里です。この季節は蛇などに出会うことありませんので、野道を分け入って石仏や道祖神像を、ゆっくりと見られるからかもしれません。野道を歩きながらのあたりの山村風景は、日本そのものだといつも感じます。
道祖神像にはさまざまな像がありますが、とりわけ 男女二神像の双体道祖神に親しみをもちます。道祖神はもともと村里の境に祀(まつ)る悪霊を防ぐ「塞(さ)えの神」といい、旅の安全を守る神でもあります。男女二神は日本神話にあるニニギノミコトの道案内をしたサルタヒコ(男神)とアメノウヅメ(女神)を象徴した神々です。これが中国の仏教・民間信仰の道教などと結びついて、道祖神・道陸(ろく)神と呼称されるようになったといわれています。さて、権田の熊久保の道祖神像は寛永2年(1625)の年号が刻され、県下で一番古いものです。戦国時代末期にすでにこの地に道祖神信仰があったことがわかります。
私が一番訪ねたいのは、男女和合の形をした像で、特に落合にある石像です。どのようなのかは、それぞれお尋ねください。夫婦円満の原点ですから。
- [次回:「おらが春」― 一茶のこと ―]
- [前回:清水寺(せいすいじ)の能楽の絵馬と紅葉]