石碑之路 散歩風景3

吉永哲郎

 高崎自然歩道、上野三碑「山上碑」への登り口の石段前に、「吾が恋は現在(まさか)もかなし草枕多胡の入野の奥もかなしも(巻14・3403)」の万葉歌碑があります。高さ約2m、横1・2mの石碑は万葉仮名で刻された手島右卿の書です。

 この歌碑のあるところは「入野の奥」に位置するところと、私は思います。
近くの上信電鉄無人駅「西山名」(以前は「入野」の駅名だった)のホームに立つと、穏やかな里山に囲まれ、南に多胡の嶺の連山が見渡されます。この駅から北への坂を歩いていきますと、先の風景は見えなくなり、別空間の山里に入ります。

 この里に万葉学者・犬養孝先生をご案内したことがありました。「この山里の静かな野が、若い人の密かな出会いのところなんですね」と言われ、「吾が恋はまさかも愛し」の歌を、しみじみと犬養節で朗読されました。「情熱的な野の恋の若者の姿が思われますね」とお話くださいました。

 その時、「何をいっているのさ。お前さんの心だってあてになるものかね。でも私は今だってお前さんが好き、大好きさ。だって入野の草原でいっしょに寝たじゃないか。と私は訳していますが」とうかがいますと、「この地に生きる人が東歌の心を一番よくわかるのです。いいじゃないか。おおいにおやりなさい」とにっこりなさいました。

 久しぶりにこの歌碑の前に立ち、犬養先生とのこと、昨日のように思い出されました。

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