販路拡大の一手を打つ小規模企業(1)

(2021年07月30日)

持続化補助金を経営に生かす
魚屋吉平


持続化補助金は、小規模事業者が行う販路開拓や生産性向上の取組に要する経費の一部を支援する制度で、商工会議所等のサポートを受けながら経営計画書、補助事業計画書を作成し、審査を経て採択が決定された後、所定の補助を受ける。現在、「一般型」と「低感染リスク型ビジネス枠」が実施されている。

 

持続化補助金の申請には、「経営計画書」、「補助事業計画書」などの書類作成が必須となっているが、申請書類の作成が大きなプラスとなって後々の経営に生かされているようだ。

 

高崎商工会議所の採択件数は県内会議所で随一となっており、関東甲信越における中核市においても遜色のない実績となっている。

持続化補助金は小規模事業者を対象に、多様な業種に活用ができる。令和2年度に採択を受けた事業所3社に話を聞いた。

 

老舗卸店が魚屋を開店

株式会社宮川商店

 

 売上対策で小売を計画

水産物卸の株式会社宮川商店は、創業200年の老舗で、本社を新潟県柏崎市に置く。宮川英明社長は、7代目になるそうだ。宮川商店は柏崎魚市場で仕入れた鮮魚を高崎周辺の店舗等に卸しており、早朝に仕入れた日本海産の魚を届けている。関東では出回らない魚もあり、安価で新鮮な魚が同社の特徴となっている。

新型コロナウイルス感染拡大により、顧客となる飲食店の営業自粛、時間短縮により宮川商店の売上も大きく減少した。

宮川社長は、以前から小売りに関心を持っており、卸売の売上減少対策として、持続化補助金を活用して鮮魚の小売店出店を計画した。

時代の流れでまちの魚屋、八百屋が消えていくなか、魚屋の新規出店は大きな挑戦となる。企画書を作成し、家族に相談したところ、コロナ禍の影響で先行きが不透明なこともあり、大反対されたそうだ。しかし宮川社長はコロナ禍の中にこそ、新たなビジネスチャンスがあると考えた。

「店を出すならマーケティングくらい勉強したほうがいい」と家人から指摘され、カチンときたが、確かにそうだと思い、5冊ほど読んだそうだ。

高崎商工会議所を訪ねて支援制度について相談し、持続化補助金を活用してみようと考えた。マーケティングの本で得た知識は、持続化補助金の申請書の作成に役立ったそうだ。

 

コロナの影響で居抜きの店舗物件

店舗の候補物件を探していたところ、上豊岡町に飲食店の居抜き物件が見つかった。大手スーパーに隣接した空き店舗で、もともとはレストランだった。中華料理店が出店する予定だったが、コロナ禍の影響で取りやめになったという。業務用の調理器具や冷蔵庫など一式が備えてあったので、開店に伴う初期投資が大きく節減できた。店舗部分は明るい内装をそのまま生かし、ショーケースと看板に補助金を活用する計画を立てた。

 

屋号は「魚屋吉平」に決めた。宮川商店の当主が代々「吉平」を襲名してきた歴史にちなんだそうだ。

 

商品構成に工夫とこだわり

魚屋吉平が開店したのが昨年7月。長女の真奈さんが店長を引き受けてくれた。近隣へのポスティングでお店の存在を周知し、口コミが最強の宣伝活動と考え、魚のプロならではの丁寧な接客を行っている。「いろいろなお客様と話ができ、接客が楽しい」と真奈さんは話す。

 

店舗内は魚屋のイメージを一新し、どちらかというとパン屋に近い。丸魚(一匹まるごとの魚)は販売せず、当日の朝に仕入れた日本海産の旬の魚を刺身や総菜に加工し、すぐに食卓に並べられるパック商品が店頭に並ぶ。

 

刺身は板前職人がさばき、定番のマグロのほか各種盛り合わせに加工。焼き魚、煮魚、フライ・揚げ物の惣菜類は店舗奥の調理場で手作りし、価格帯は380円から580円で設定している。SNSで情報を拡散してもらうおうと商品の見栄えも重視し、展示レイアウトも工夫した。輸入ではなく、日本海産を積極的にアピールするため、シールも貼付している。

 

「店舗の広さも限られており、なんでも揃えることはできません。お客様、商品を絞っていくことが第一歩でした」と宮川社長は振り返る。

高齢者世帯、共働き世帯、核家族、一人暮らしの世帯などを想定し、おいしい魚を調理の手間を省いて食べてもらいたいと考えた。

宮川社長は「仕事から帰ってから、魚をさばいたり、調理したりするのは大変だと思います。商品は品目も多く手間がかかりますが、おいしさへのこだわりが当店のウリです」と話す。

 

 

「いいもの安く」だけでは客は来ない

群馬は海なし県だが、魚の味、特に刺身の味にはうるさいようで「プロ以上に厳しい味覚を持っているお客様が多いです」と宮川社長は感じている。顧客の要望に応え、グレード感のある刺身も提供するようになり、お客様に好評という。

 

昨年は、新型コロナウイルス緊急事態宣言が発出されて以降、「おうち時間」「家呑み」が広がり、中食・惣菜の売上が伸びた。

 

「いい商品を安く売ればお客様に来てもらえると思っていましたが、小売はそんな単純なものではないことを学びました」と、特色ある品揃えとサービスの充実、好感の持てる店舗のしつらえなど、経営戦略の重要性を実感している。「魚屋吉平の真価を発揮し、お客様に魚を大好きになっていただきたいです」と意欲いっぱいだ。

 

株式会社宮川商店 魚屋吉平

代表取締役 宮川  英明さん・店長 真奈さん

高崎市上豊岡町285-2

営業時間:午前11時~午後6時30分

定休日:水曜日

 

高崎商工会議所「商工たかさき」2021年7月号

 

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