「6次産業化」は日本の農業を活性化する原動力になるのか

(2016年05月30日)


 農畜産業(第1次産業)に従事する者が、食品加工(第2次産業)から流通・販売(第3次産業)までを総合的に手掛ける多角化を「6次産業化(6次化)」という。1次×2次×3次で6次となることから名付けられた。加工のための設備の小規模化によって投資コストが下がったことやネット販売が手軽にできるようなったことによる流通の仕組みの多様化によって、高崎市内でも農業生産者がジュースやジャム、ジェラートなどの商品を作って販売するなどの動きが目立ち始めている。

 
「商工たかさき」 2016/5号より
  

●6次化が日本の農業を救うか

 業従事者の高齢化により日本の農業は衰退の一途をたどっている。1995年には414万人だった農業就業人口は2016年中には200万人を下回ろうとしている。また、平均年齢は2015年に66.3歳となり、1995年の59.1歳から7.2歳も高齢化している。農業就業人口が減少し、高齢化が進めば、耕作放棄地も増えていく。
 その一方で、農業の法人化や他産業から参入も進んでいる。若い農家を中心に、耕作放棄地を借り上げて、規模を拡大し、収量を増やしていく傾向にもある。
 そういった新しい農業の流れの一つに6次化がある。農業者が農産物の生産だけでなく、その先の加工や流通・販売までを一貫して行うことで、従来は途中の産業が得ていた収益を農業者が得ることができる。それによって農業は活性化して、若者の新規参入も今まで以上に増えるかもしれない。6次産業には、日本の農業復活の期待もかかっている。
 また、消費者にとっては原材料や生産者が見える安心安全な加工品であり、その土地にしかない希少性や地方の魅力が詰まった商品として注目されている。ただし、少量生産である場合がほとんどなので、大量生産品と比較すると割高になる場合が多い。それでも6次化に挑戦する農業者は増えているのは何故だろうか。そこには行政の手厚い支援策があることも大きな理由になっている。

 

●高崎市における手厚い6次化支援策

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 6次化に取り組む上で必要となるのが、商品開発、加工、パッケージデザイン。生産だけを行っていた時よりも時間もコストも掛かる。そこで高崎市では、「6次産業化等推進事業補助金」を作り、積極的に生産者を支援している。
 具体的には、加工施設の建設や設備、車両などの経費のうち5分の4以内で上限1,000万円、またパッケージデザインの委託や包装資材の購入などの経費についても上限500万円の補助を受けることができる。
 また、平成23年度から実施している「地産多消推進事業」も継続しており、『アグリフードEXPO』や『地銀フードセレクション』などの商談会などへの出展、恵比寿ガーデンプレイスで実施している『恵比寿マルシェ』への出店など、販路拡大のサポートも行っている。6次化のスタートは自ら作って自ら売るところから始まる。意欲的な生産者は、これらの制度を使って6次化に挑戦している。

 

●立ちはだかる加工の壁、コストの壁、流通の壁

 こうした行政による支援を受けたとしても、生産者が6次化に取り組むにあたり、まず立ちはだかるのが設備投資の壁だ。ジュースやジャム、ドライチップなど加工するには専用の設備が必要になる。機械の小型化や高性能化で導入コストが下がったとはいえ、個人の農家にはまだまだ大きな負担である。また、加工所を設置するには食品衛生の基準もクリアしなければならない。つまり、農家が未知なる業界に参入するということであり、日々の仕事に追われる中で新規事業に取り組むという困難が待ち受けることになる。
 ジュースなどは外注に頼る場合も多い。群馬県内のジュース加工施設を持つJAがいくつかあり、そこに原材料となるトマトや人参などを持ち込み、加工を依頼することになる。この場合、自前の加工施設を持つ必要はないが、加工代がそのまま商品価格に上乗せされることになる。
 商品化の壁を乗り越えた先には、「販路を作る」という壁が表れる。6次化に取り組む生産者にとって最大の課題はここで、「商品は作ったが、売り先が見つからない」という声は多い。果樹や野菜などを、独自ルートを確保して販売してきた意欲のある生産者を除いて、多くの生産者は自ら販売を行うという経験が少ない。6次化に挑戦して、初めて販売する難しさに直面する。
 マルシェやイベントなどで少しずつ販売のコツをつかむが、なかなか収益を上げるまでの道のりは遠い。また、売れるようになっても生産量が少ないという課題もある。原材料はあくまでも自分や地域の農家が作った産品なので、収穫量に左右されることもある。

 

●店舗型、ブランディング型など取り組み方はさまざま

 もちろん、それらの壁を乗り越えて6次化に取り組む生産者は増えている。店舗を作って集客することで、最大の課題である販路確保という課題をクリアしようとする生産者、個々の力ではコストや時間、アイデアなど限界があるので、地域の生産者が集まって新しいブランドを立ち上げたグループなど、6次化を成功させるためにそれぞれ努力している。
 昨年からは、高崎市によるふるさと納税の返礼品としてもさまざまな6次化産品が使われている。商品を提供している生産者は「全く期待していなかったが、数セットが出た。返礼品に選ばれることは商品の信頼性向上につながると思う。まだまだ認知されていない商品なのでありがたい」と話す。
 自らが作った農産物をジュースや、ジャムなどに加工すれば廃棄していた野菜が減るし、付加価値を付けて高く販売できる、という農業の活性化を目論んだ「6次産業化」という言葉であるが、真の成功事例はまだまだ少ない。東京から100キロ、1時間という地の利と温暖な気候によって多種多様な農産物が生産される高崎市から、全国に知られる6次化産品が誕生することに期待したい。
 次頁からは、市内で始まっている6次化の事例を紹介する。

 

■事例1
耕作放棄地を開墾して造った果樹園&カフェ
農業生産法人㈱フルーツオンザヒル

●清々しい丘で季節のフルーツ三昧

IMG_201509フルーツアイスバー
ドライフルーツドライフルーツ
低温熟成乾燥機高崎市の補助を受けた低温熟成乾燥機の導入をはじめとする加工施設の整備
DSC06168
DSC06157齋藤 勝彦さん

 上信越自動車道の藤岡・吉井両インターから車で10分ほど。国道254号線を少し入った丘陵に広がる『フルーツオンザヒル』。2.3haの土地にブルーベリーやぶどうなどの果樹園があり、上毛三山などが見渡せる清々しい場所だ。
 ブルーベリーは80種約2,000本、ぶどうの木は15種100本が植えられ、安心安全をモットーに有機栽培や減農薬への取組みが熱心に行われている。果樹の摘み取り体験ができる観光農園であり、園内のカフェでは採れたての果実を使った10数種の「フルーツアイスバー」、皮ごと食べられるシャインマスカットやブルーベリーのフレッシュジュースが味わえる。

 

●近隣との関係も良好、観光資源の魅力も大

 数十年以上も手つかずの耕作放棄地だったところを、まとまった土地が借りられ、地の利も良いとの理由から、齊藤さん夫妻が重機を使って開墾に励んだ物語には相当に驚かされる。
 齋藤さんは、元々はおもちゃ屋の経営者で、埼玉県美里町の妻の実家でブルーベリーの栽培・管理を経験し、農作業後の風呂上がりのビールのおいしさが病みつきになったことから、4年前に就農を決意した。地道な開墾の苦労より、徐々に変化していく風景に胸が躍ったと笑う。徐々に素敵な場所が切り拓かれるワクワク感に地元の人たちも好意的で、「何かとお引き立ていただいています」と齊藤さんは感謝する。

 

●6次化認定と高崎市の支援

 同社は、平成27年2月にフルーツアイスバーの製造・販売と観光農園のブランド化により「六次産業化・地産地消法」に基づく総合化事業計画の国の認定を受けた。そして、同年8月1日に観光農園とカフェをオープンし、シルバーウィークには、1,000人もの人が押し寄せるほどの大反響となった。
 平成28年3月には「丸干し芋」と「ドライフルーツ」の製造・販売を開始。低温熟成乾燥機の導入や、乾燥作業を行なう作業棟の建築は、高崎市の支援を受けて実現した。
 「丸干し芋」はねっとり甘いと好評。果物の風味を大切にし、添加物は一切不使用という「ドライフルーツ」は自信作。栽培するイチジクの収穫を待って、ドライイチジクにも取り組む。ジャムなども“果実をふんだんに使ったお得感”を実現し、どれもカフェで直売する。
 「お客様の顔が見える直売は、手応えがダイレクトに伝わってきてやりがいがあります。来年には、自家栽培のハーブを使ったハーブティーもご賞味いただけます」。農作業も加工作業も、全てお客様の笑顔につながっているので、やりがいを持って続けられるという。

農業生産法人㈱フルーツオンザヒル
高崎市吉井町小串750-5
TEL:027-388-8411
営業時間:平日 午前10時〜午後5時
     土日 午前9時〜午後6時
春季営業(3月18日〜5月31日)
休日:火曜・水曜

 
 

■事例2
榛名地域のイメージアップを図る
榛名倶楽部

●生産者と小売店舗のタイアップ

IMG_5365●商品価格表
米 ゆめつくし(白米・玄米)2合250円、コシヒカリ2合400円、和梨ドライフルーツ・柿ドライフルーツ30g550円、ブルーベリージュース100%500ml 2450円、和梨ジャム・プラムジャム、150g 550円・和梨のフィナンシェ1本170円、ドライフルーツティ1袋650円、他

photo16-2「榛名」の地名の由来は、榛名湖に自生している榛(はん)の木。万葉集に詠まれ染料にも使われた古式ゆかしい木だ。山木さんらは「美しい名前の榛名地域を地元の人に誇りに思ってほしいし、それを伝えていきたい」と願っている。
photo16-3里見農園 里見 吉隆さん
IMG_5395山木 あすかさん

 山木さんは長年、カフェを経営しながら「榛名地域のイメージアップを図りたい。そのために特産の果物を加工した商品を作って販売したい」と考えていた。その思いに賛同した3軒の農家と2軒の小売店主の5名で2年前に「榛名倶楽部」を立ち上げ活動をしている。
 商品は、和梨やブルーベリーのジャム、ドライフルーツの加工から始まり、ブルーベリージュース、梅干し、米、サブレ、フルーツティーなどにも広がり全12品目となった。山木さんのカフェ・アンジェリーナと茶楽人(高崎市上並榎町)の他、恵比寿マルシェ、幕張イオン等の高崎物産展に出店、都心での販売にも取り組んでいる。

 

●消費者のニーズに合う商品作りとは

 「専門工場を持たない私達は、自動車のOEM生産にヒントを得て、部分的に加工工場を頼っています。例えばジャムの瓶を煮沸消毒できる設備のある工場は衛生面でも安心です。生産者は生産に集中し良い農産物を作ることができ、加工・販売はその専門家が担うべきと考えます。商売である以上、リスクを出来るだけ回避しなければならないからです」と山木さんは話す。6次産業を分業することによって、各自の持ち味を生かし効率のよい活動に繋げているようだ。
 課題は、在庫管理、品質管理だ。「今期はお陰様でほとんどの商品が完売しました。需要に応えられるようにしたいのですが、農産物は天候に左右されてしまうので、今後どれだけ仕込めるかが課題です」と話す。
 物産展などで消費者とダイレクトに接する中で商品について具体的なアドバイスを受け、学びも多かった。「都市部のいわゆる富裕層は添加物のより少ない物を求め、パッケージの裏の原材料を吟味し、慎重に購入を判断します。価格設定についても都市部では安いと言われますが、地方ではそうはいかないところもあります」。山木さんは「収益第一ではなく、6次化によって生産者のやりがいにつながっていることが大きな価値」と考えているため、価格設定ラインにも独自の判断が必要だ。
 

●海外への販路拡大も目指して

 山木さんは海外への販路拡大も見据えているという。海外に住む友人から、「安心安全、品質、味の良さなど優れた日本の食品への需要は高い。シンガポールやバンクーバーは在日本人が多く、マーケットとして魅力的なのでは」と勧められたのがきっかけとなった。
 榛名倶楽部は、これらの課題を一つひとつクリアにしながら、生産者のやりがいと地域活性化を結び付け、6次産業の3年目に向けて動き出している。

榛名倶楽部
高崎市下里見町1231-1
TE:027-343-3594
販売先 アンジェリーナ:高崎市下里見町1231-1 Tel.027-343-3594
茶楽人:高崎市上並榎町319-1 Tel.027-363-0368

 

■事例3
農家の強み、鮮度と品質を活かして
農業生産法人㈲ホウトク

●経営安定のための様々な取り組み

1
ドライトマトドライトマト
干し芋干し芋
武藤さん武藤 真堂さん

 武藤さんは会社員を経験後、平成18年に、“農業で働く人と社会を豊かにする会社”という理念のもと、農業法人㈲ホウトクを設立した。現在5人のスタッフでキャベツ、白菜、玉葱、サツマイモなどを10 haの畑地で生産し、大手外食チェーンや食品加工工場などへ供給している。
 「天候や市場に左右される農業経営を安定させるため打開策はないか」と先輩達から学び、農業の可能性を探ってきた。その結果「農業は雇用を生み、消費者に野菜を届けるサービス業」という考えにたどり着き、福祉団体との連携やネットビジネスなどにも着手、先進的な取り組みを行ってきた。さらに今年、6次産業に参戦、乾燥商品の製造販売に乗り出した。

 

●農家は元々、6次産業をやっていた

 武藤さんは「農家は元来、味噌や醤油、乾燥食品などを自給自足しており、加工に関しては経験があった」と捉える。両親の代で蒟蒻加工に使っていた建物にドライ加工用設備を導入。「干し芋が昔から好きで、いつかやりたい」と思っていた。低温加工できる新技術の乾燥機械メーカーと出会えたことで事業が前進。さらに県農政部でドライ加工の研究が進んでいることを知り勉強会に参加し自信を深めた。「農家は自分達で作った作物を材料にするので、鮮度や品質面で優位。加工メーカーにない利点がある」と強みを語る。干し芋は、添加物なしで十分な甘さを持ち合わせ、食物繊維、ビタミン等が豊富で疲労回復作用があり、美容、健康にもいい。また、冷凍保存で更に甘味が増すという。
 乾燥設備をフル稼働させるため、ホウトクではドライトマト、ドライフルーツの加工も行う。トマトはドライにすると甘味が凝縮され、そのままでも加熱しても美味しく、スープやパスタ等に利用でき、高いニーズが見込める。果物は県内で安定して調達できるリンゴ、梨、キウイフルーツを考えている。

 

●販売先確保とネット展開を目指して

 今後の課題としては、「生産規模は拡大できるので、道の駅や直売所、各種デパートや小売店などの販売先をしっかり確保すること」を挙げ、ネット販売や、将来的には自社店舗の運営も目指したいとする。また1次産業の労働力不足は否めないため、新規就農者や外国人研修生にとっても働きやすい環境整備を進め「あと5人は良い人材を確保したい」と語る。
 群馬は空っ風と日照量が多く、もともと乾燥商品に適した地域だ。今後さらに、イモの収穫量を増やしていくこと、また“吉井産の干し芋”として、地元の歴史遺産や観光と絡めた商品化をしていけたらと干し芋を起爆剤に、6次産業の可能性にかけている。

農業生産法人㈲ホウトク
高崎市吉井町岩崎329
TEL:027-343-3594

■事例4
果樹園農家の自家製ジェラート
Albero.(アルベロ)山木農園

●観光農園の今後に危機感

ジェラート1ジェラート
アルベロパウンドケーキパウンドケーキ
ハーブティフルーツハーブティー
アルベロ外観
山木久利さん山木 久利さん

 東京でサラリーマンをしていた山木さんが、父の代から60年続く梨園を受け継いだのは17年ほど前。父親が他界し、梨栽培にかかわったことのなかった山木さんは、隣人の農家に3年間指導を受けた。「地縁もなく余所から転農してきた人と同じ状況でした」と当時を振り返る。今では、果樹園の面積は当時の3倍になり、桃やプラム、サクランボなど種類も増えた。
 しかし、「この辺りの果樹園は従来、観光農園として直売が一般的。一人当たりの購入量が多い時の3分の1以下に減少しました」と、将来に危機感をつのらせていた。
 

●収穫した果実を使ったジェラートショップ

 そこで、若年層にももっと足を運んでほしいと、果樹園で採れた果物を主原料にしたジェラートショップを計画。果樹園の繁忙期も、自らアイスクリーム屋などで修業を積み、4年ほどをかけて技術やノウハウを蓄積した。
 2010年に念願のジェラートショップ『アルベロ』を開店。子どもからお年寄り、病気を患っている人でも、おいしく食べられて栄養価も高いジェラートに着目した点や、“果樹園農家が営む自家製ジェラート”という付加価値を打ち出した点などが功を奏し評判を広げ、他県などからも訪れる客が増えている。
 店舗には、旬の食材を使ったジェラートが常時20種並び、時に珍しい旬の味を取り入れたものなどが顔を出す。期待を裏切らない高品質なおいしさ、初めて出会う素材への驚きや感動が、また足を運びたいと思わせる。
 

●国の6次化認定を受け、ブランド力を磨く

 店舗で販売しているものに、「生菓子」や「焼き菓子」、「ジャム」などがある。また、自家栽培したハーブなどを使用した「フルーツハーブティー」の製造にも着手し、平成27年10月には「6次産業化・地産地消法に基づく事業計画の認定」を国から受けた。それにより、6次化の推進に有効な情報が得やすくなったと、山木さんは大いに期待を膨らませる。
 「若い人たちのニーズをキャッチするにも、顔の見える店舗販売は非常に有効」と言う。
 また、今年から始めた『梨のオーナー制度』は、子どもたちに果物のことをよく知ってもらい、食べる習慣を身に付けてほしいとの取り組みで、都内と高崎の5家族が参加する。
 産地の今後を考えたとき、集客のための仕掛けづくりや情報ネットの活用が欠かせない。そして何より、腰を据えた本気の取り組みが必須。今後はさらなる農産物の加工に取り組んでいく予定だ。「6次産業化は、お客様に感動を与え、喜んでいただける無限の広がりのある事業です」と山木さんは力を込める。

Albero.(アルベロ)山木農園
高崎市下里見町1701-1
TEL:027-340-1235
店舗営業時間:10時〜19時(年中無休)

 
(商工たかさき・平成28年5月号)

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