東京2020と高崎

(2018年12月31日)

ポーランド・JOC・高崎市協定書締結式(2017年10月・東京)

2020年東京オリンピック・パラリンピック(以下東京2020)の経済効果は、32兆円に及ぶと東京都はこれまでに試算している。この経済効果を波及させたいと地方都市も少なからず期待を寄せている。高崎市はポーランド、ウズベキスタンのホストタウンとなり、高崎アリーナでの国際大会開催や事前合宿の誘致など、高崎市の取り組みが、既に大きな都市変化をもたらしている。

 

東京2020 地方への経済効果はどのくらいか

東京都が2017年3月に発表した東京2020の全国への波及効果は32兆3千億円で、内訳は、準備期間から開催までの直接的効果が5兆2千億円、交通インフラ整備や競技会場の活用、訪日観光客の増加など、オリンピックの遺産(レガシー)により開催後に継続する「レガシー効果」が27兆1千億円と試算している。

 

この試算によれば、波及効果の32兆3千億円のうち、都内が約20兆4千億円、その他の地域が11兆9千億円となっている。

 

この11兆9千億円のうち、高崎にはいったいいくら落ちるのか、どのような業種・業態に経済効果があるのかということだが、現段階で具体的な数字を出すことの難しさは、ご理解いただけると思う。

 

東京2020では、東京以外の地方都市にも効果が波及するような取り組みも計画されている。例えば、インバウンド観光で多くの外国人観光客を全国に回遊させるような方向が打ち出され、多くの地方都市が東京2020の効果を期待している。少なくとも首都圏の都市は、東京2020の恩恵にあずかろうと虎視眈々としているのに違いない。そうした地方都市の中で、高崎市の取り組みは、頭一つ抜き出てきたと言えそうだ。

 

東京オリンピックの盛り上がりは

オリンピックの開催期間は2020年7月24日(金)から8月9日(日)までの17日間、パラリンピックは8月25日(火)から9月6日(日)までの13日間となっている。

 

オリンピック期間中の高崎は、どんな様子になるのか想像してみよう。

 

高崎市と日本オリンピック委員会(JOC)は「JOCパートナー都市協定」を2015年に締結し、高崎市民や市内の子ども達とトップアスリートとの交流事業が継続的に行われており、東京オリンピックに対する盛り上がりにも、高崎市は力を入れていくだろう。また事前合宿誘致で、高崎市はポーランド、ウズベキスタンのホストタウンとなっており、両国の選手団への歓迎行事なども行われ、海外選手への関心も高まる。高崎アリーナで大会が行われる時と同様に、合宿に来高した海外選手を応援するため、ペデストリアンデッキに立て看板が置かれ、まちなかにのぼり旗も立てられるだろう。

 

事前合宿を行うポーランド、ウズベキスタン選手に対する親近感も生まれ、オリンピック期間中はスポーツバーなどでの試合観戦・応援といった盛り上がりもあるだろう。

 

高崎で事前合宿をしていた選手団は、大会の直前に都内の選手村に移るが、来日した各国のスタッフ全員の宿泊が都内で確保できるとは限らない。都内でのホテル探しに苦労するよりも、選手以外の関係者は引き続き高崎に残り、高崎を拠点にしながら、まるで新幹線通勤のようにオリンピック競技会場へと通うことも想定されているそうだ。

 

地方都市にインバウンド効果はあるのか

東京2020が大会期間中に地方にもたらす経済効果としては、オリンピック競技会場近郊に宿泊できなかった外国人観光客の受け皿となること、来日した外国人観光客が日本各地を回遊し、観光消費によって外貨を落としていく、いわゆるインバウンド効果が期待されている。

 

オリンピック期間中の宿泊需給については様々な試算があるが、東京と東京周辺のホテルでまかなえるという見方もある。しかし、過去の海外の例を見ると、オリンピック競技会場近くの民間宿泊施設が大会期間中の料金を値上げしたために敬遠され、多くの観光客が少し離れた大都市から高速鉄道やバスを使って観戦したということもあった。東京近郊の都市の中で、宿泊機能、交通利便性に優れた高崎の優位性が、存分に発揮できるだろう。  訪日外国人観光客数は2015年に1,974万人に達したことから、政府は目標値を上方修正し2020年は4千万人に、2030年は6千万人という強気な目標を示している。地方都市が、東京などの大都市や国内の有名な国際観光都市と同じように訪日外国人を増加させていくためには相当の努力を要するが、体験型のインバウンドなどで地方誘致に成功している事例なども話題となっている。

 

アリーナ効果は一大会で1億円超

東京2020が都市にもたらす効果は、東京2020に向かってどのような取り組みを行ったか、その取り組みをオリンピック後も持続発展できるかということがカギになる。

 

その意味で、高崎は既に大きな手応えを得ている。高崎は世界のトップアスリートが集まるまちになり、まちの風景も国際色豊かになっている。高崎財団は、2017年に高崎アリーナで開催された主だった国際大会・全国大会など11大会について、高崎市への経済効果は13億3千万円と試算している。1大会当たりの平均で約1億2千万円の経済効果となっている。2018年度は、前年度を上回る経済効果を見込んでいる。

 

観光庁の統計では、2017年に群馬県内に宿泊した外国人は27万620人で前年比37%増、過去最多となった。国・地域別では、台湾が13万610人、香港2万5,390人、中国2万4,590人。タイやシンガポールなど東南アジアも増加している。市町村別のデータは示されていないが、高崎アリーナで開催される国際大会に参加する外国人選手団も、外国人客数の増加に貢献している。

 

メダルの期待!ソフトボール女子日本代表

高崎には日本女子ソフトボール1部リーグのトップチーム、ビックカメラ高崎と太陽誘電ソルフィーユが所在し、高崎はソフトボールシティとして、盛り上がりを見せている。

 

ソフトボール日本代表を率いる宇津木麗華ヘッドコーチ(ビックカメラ高崎)、山路典子アシスタントコーチ(太陽誘電)、日本代表メンバーとしてビックカメラ高崎、太陽誘電の選手が活躍しており、東京2020のメダル獲得に向けて、市民の期待が高まっている。

 

世界の強豪が城南球場で対決するジャパンカップ国際女子ソフトボール大会も高崎を世界に発信している。

 

今年6月にはソフトボール女子フランス代表とソフトボール女子日本代表が、高崎でそれぞれ合宿を行った。2020年の東京に続き、2024年パリ、2028年ロサンゼルスで夏季オリンピックの開催が決定しており、2024年パリでのソフトボール競技採用に向けて、ヨーロッパ・アフリカ地域でのソフトボール競技の普及活動が重要となっているという。

 

高崎市は浜川運動公園拡張整備事業で、第1期事業としてソフトボール場の整備工事が行われている。先行して工事が行われているソフトボール第1グラウンドは観客席スタンド約800席・人工芝で平成30年度完成予定。第2グラウンドは天然芝グラウンドで、平成31年度の完成予定。浜川運動公園近隣には、ビックカメラ高崎の宿舎、屋内練習場があり、ソフトボール場が完成すれば、高崎に水準の高い競技環境が整うことになる。

 

東京2020に向けてソフトボール競技の拠点として、高崎市は重要な役割を担うことになりそうだ。

 

真心が通じ評判が評判を呼ぶ

初の高崎合宿はポーランド男子バレーボール

海外チームが初めて高崎で合宿を行ったのは2016年5月のポーランド男子バレーボールチームで、東京で行われるリオデジャネイロオリンピック最終予選に向けて調整した。高崎アリーナの完成前で、選手は浜川体育館で練習した。高崎市がポーランドに対して東京2020の事前合宿を誘致する中で、男子バレーボールの高崎合宿が実現した。この合宿が選手・コーチに高く評価され、ポーランドとの交流に大きな弾みがついた。

 

「高崎にしたい」とトップ選手

東京2020の事前合宿を日本のどこで行うかは、国単位であったり、競技チーム単位であったり様々のようで、個人競技の場合は競技者自身が決めることもあるようだ。

 

東京2020への出場権を得るのはこれからという競技も多く、事前合宿が具体化するのもこれからだ。とは言え、東京2020への出場が濃厚な世界ランキング上位者は事前合宿の準備を進めている。

 

高崎市は、ポーランドとウズベキスタンのホストタウンとなっているが、ポーランドの陸上競技は高地トレーニングを行うために山形県上山市をホストタウンにしている。その中でポーランド女子ハンマー投げ選手で世界記録保持者・オリンピックメダリストのアニタ・ヴォダルチク選手とクシシュトフ・カリシェフスキ・コーチが今年10月に高崎市を訪れ、メイン練習場候補地として浜川競技場、ウェイトリフティング練習候補地として高崎アリーナを視察した。

 

アニタ選手は視察後に「2020年東京オリンピックの事前合宿を高崎市で行うことに決めた」と話している。

 

話は更に広がる。

 

アニタ選手のコーチ、クシシュトフ・カリシェフスキ氏がカタールでもコーチを務めていることから、カタール陸上競技団体を通じて男子走高跳・2017ロンドン世界選手権金メダリストのムタズ・エサ・バルシム選手に、東京2020の合宿地として高崎市を推薦。バルシム選手はハネムーンでの来日に合わせて、急きょ予定を調整し11月29日に高崎市を訪れ、浜川競技場を視察した。

 

バルシム選手は、「高崎の人に良くしてもらい第二のふるさとのように感じた。事前合宿地はコーチと相談するが、高崎になることを願っている。必要な施設もそろっていて、東京から新幹線50分とアクセスがとても良く、集中して最適な練習ができると思う」と話した。

 

このほか、2018世界選手権の覇者、ポーランド男子バレーボールチームを始め、複数の競技団体が高崎で合宿を行う予定。東京2020の本番前に、2019年は多くの競技団体が高崎を視察訪問するだろうと見られている。

 

ウズベキスタン新体操が高崎合宿

今年4月に高崎市はウズベキスタンのホストタウンに登録され、東京2020では新体操競技の事前合宿が期待されている。

9月に高崎アリーナで開催された新体操の世界大会「イオンカップ」に出場したウズベキスタンチームが、大会後に高崎市で合宿を行った。合宿では群馬県国体代表チーム、高崎新体操クラブとの合同練習も行われたほか、高崎アリーナで開催された高崎市民大会新体操競技では、ウズベキスタン選手によるエキシビションが披露された。

 

今回の合宿は、高崎市の施設の確認や市民との交流が目的。チーム一行は高崎市役所を訪れ、富岡賢治市長に民族衣装を贈るなど友好を深めた。

 

高崎市のスポーツ外交・文化外交が開花

 インバウンドに強力な味方が登場

高崎を舞台にした日本、シンガポール、フランス合作の映画「ラーメン・テー(エリック・クー監督、主演・齋藤工さん)」に出演し、今年9月に高崎PR大使に就任したシンガポールの女優、ジネット・アウさんが11月に来高し、高崎のPR活動に向け、市内の農産地を訪問した。

富岡市長は高崎産農畜産物の販路を東アジアに展開していく取り組みを進めており、シンガポールで絶大な人気を持つジネットさんの発信力に、期待が寄せられている。

シンガポールでは、映画「ラーメン・テー」のロケ地として高崎が注目されているそうで、高崎の農産物を楽しみながらジネットさんの足跡を訪ねる聖地巡礼の観光客もシンガポールから訪れるかもしれない。

ジネットさんはもてなし広場で行われた農業まつりも見学したが、会場での存在感は大きく、来場者に囲まれながら、笑顔で対応してくれた。

地方都市では、体験型のインバウンドが効果を上げており、シンガポールに的を絞ったPR戦略に、ジネットさんは心強い助っ人になってくれそうだ。

「ラーメン・テー」はヨーロッパやアジアで順次公開され、日本では邦題「家族のレシピ」として来年3月に公開される予定。

 

ものづくり海外フェアがきっかけに

高崎市が東京2020の事前合宿誘致を進める中で、2015年10月に市内企業の海外展開を進める「高崎ものづくり海外フェア」が、チェコとポーランドで開催された。

この海外フェアには市内製造業13社が参加し、チェコのプラハ、ポーランドのワルシャワで商談会を行ったほか、現地企業の視察などを通じて交流を深めた。日本の都市が単独で商談会を開催するのは現地でも初めてで関心も高まった。産官を挙げた歓迎を受けて多数のメディアに注目され、高崎市の浸透や人脈づくりもはかれた。現地視察では、八木工業株式会社(倉賀野町)が設立した「YAGI POLAND FACTORY」などを訪問した。

翌2016年の「高崎ものづくり海外フェア」はシンガポールに会場を移して開催された。シンガポールタカシマヤで、高崎市の梨・桃・梅などの農産物や加工品等を出展・販売し、海外プロモーションを盛り上げた。

このシンガポールでの海外フェアをきっかけに、エリック・クー監督による映画製作が実現し、ジネットさんの観光PRにもつながっている。官民によるスポーツ、文化、産業による交流が成果を結んだと言えるだろう。

 

タクシー協会が外国人客対応で研修

高崎アリーナで開催される国際大会に参加する外国人が増加し、高崎駅を中心に、集客施設の開発が更に進んでいることから、高崎地区タクシー協会はタクシー利用時の英会話コミュニケーションやお客様への接遇向上をめざす研修会を11月に実施した。市内のタクシー乗務員約300人が受講した。

高崎地区タクシー協議会の吉本賢二会長は「高崎市内のタクシー利用は1日平均4、500件・6千人となっている。お客様に気持ちよく乗っていただいて目的地まで安全にお送りするのが私たちの使命。高崎アリーナができて、まちの中に外国人も増えた。2020年には東京オリンピックや群馬デスティネーションキャンペーンがあり、高崎は新幹線が止まる群馬の中心としてより良いタクシー業界にしていきたい」と話している。

これまで、宿泊施設などで英語のコミュニケーションや飲食店での多言語メニューなどが取り組まれてきた。海外からの来訪者を迎える上で、交通インフラを支えるタクシー乗務員のスキルアップは大きな意義を持っている。もちろん、数時間程度の研修で英会話を修得することは難しいが、外国人観光客に対するおもてなしやコミュニケーションの心が広く浸透していけば、高崎は大きく変わっていくことになるだろう。

 

使いやすさとおもてなしの心が不可欠

東京2020に向けて、都内のスポーツ施設等の改修が行われており、高崎アリーナで開催されている全国大会、国際大会の中には、これまで代々木体育館など都内の体育施設で開催されていたものもある。

高崎アリーナは、大会を運営する主催者はもとより、アスリートと客席が一体となって盛り上がれると出演者に評価されている。テレビ、新聞、専門誌などのメディアにも高崎アリーナでの大会が報道されている。高崎アリーナは、単に都内の施設の代替ではなく付加価値の高さを利用者に感じさせている。開館2年目にして、体操、新体操、チアリーディングの大会は、高崎アリーナに定着しているような印象さえ受ける。

 

前述したように、高崎アリーナで国際大会が1回行われると、市内に1億円の経済効果がもたらされる(これは高崎における東京2020の経済効果の一つとも言える)。高崎アリーナへの大会誘致は、なんとしても継続していかなければならない。来年からは、高崎芸術劇場による経済効果も上乗せされてくる。

 

東京から近い、新幹線駅から近い、宿泊に困らないという高崎の優位性は、国際的に活躍するアスリートたちに広がってきているようだ。時間が立つのは速く、東京2020まであと何年などと言っている間もなく、開催が迫ってきている。東京2020に向けて、そして東京2020の後も、引き続き高崎アリーナで数多くの全国大会、国際大会の開催を継続するためには、参加者、来場者に対するおもてなしが不可欠であり、オール高崎の取り組みが求められる。

 

2020年以降の日本経済については、失速を警鐘する見方もある。東京2020に向けて、今、私たちが取り組んでいることは、間違いなく高崎の未来につながっている。高崎へのインバウンドが本格化するために、業界の垣根を超えた連携もより一層重要になるだろう。

 

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