ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.22

ザ・ウォーク

志尾 睦子

2015年 アメリカ
監督:ロバート・ゼメキス
出演:ジョセフ・ゴードン= レヴィット


山は動かせる

 新しい年が始まりました。平成から新元号へ変わる年。そんな時だからこそ、自分にも何か変化をもたらしたいと考えています。実現可能な目標や夢も大切ですが、時にはひらめきや気持ちのままに大きすぎる目標や夢をかかげることも大事な気がします。それが到底無理だと思われることでも、偉業を成し遂げた先人たちがたくさんいるように、自分に出来ることもまだたくさんあるかもしれない、と思うとワクワクしてきませんか。今回はそんな思考に、力を貸してくれる一作をご紹介します。
 本作は、実在のフランス人綱渡師フィリップ・プティが1974年に成し遂げた世紀の空中闊歩を描いた物語です。当時世界一の高さを誇ったワールドトレードセンターのツインタワービル。まだ若き23歳の綱渡師は、そこにロープを張り、命綱無しで渡るという挑戦をしました。そんな驚きの計画を彼はなぜ思いつき、どのようにその夢に挑んだのか。ハリウッドの名手ロバート・ゼメキス監督が迫力ある映像と人間ドラマで描き出します。
 プティはワールドトレードセンターに挑戦するまでにも、様々なところで綱渡りを敢行し成功させてきました。緻密な計画と周到な準備、そして日頃の鍛錬が彼の体と精神を鍛え上げ、集中力と感性を研ぎ澄ませていきます。もちろん、プティ一人が技術を磨けばできる話ではありません。一つ一つの綱渡りが、周囲の人たちの理解と協力無くしては成し遂げられないからです。プティが挑戦していく綱渡りは、死と隣り合わせな危険行為であると同時に、違法行為でもあります。彼の挑戦は世間から非難も受けますが、彼にとってそれは遊びではなく、体を使った芸術なのだと理解する仲間たちがいました。
そうして世紀の挑戦まで実に6年の歳月が費やされますが、スパイ大作戦かと思うような手口でビルの構造や内部情報を獲得していくプティとその仲間たちの姿には驚くばかりでした。様々なトラブルに見舞われながらも彼は最後に、地上411メートル、階数にして110階の地点から空に足を踏み出すのです。
ゴールを明確に思い描き、綿密に計画を立て、諦めずに挑戦し続ける事で動かなかった山は動かせる。綱渡りに信念を持ち、情熱を傾けていくプティに人々が惹きつけられ心を動かされる理由がそこにはありました。
プティ本人と仲間たちの証言でまとめられたドキュメンタリー『マン・オン・ワイヤー』も是非併せてご覧ください。

高崎商工会議所『商工たかさき』2019年1月号

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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