ビジネスパーソンにお薦めするこの1本 No.57

東京ゴッドファーザーズ

志尾 睦子

2003年 90分
監督:今敏 
声の出演:江守徹/梅垣義明/ 岡本綾


きよし心が運命を切り開き奇跡を起こす

 生活が様変わりして早2年。オリンピックイヤーとなった2021年は、模索と辛抱、そして知恵で乗り切る一年であったように思えます。何事にも細心の注意と配慮を払う生活が定着し、その上での活気が少しずつ出てきていることも実感します。しっかり悩んで苦しんだからこそ、前を向いて進めるものなのだと思えます。一年前と比べると今年のクリスマスシーズンは華やかさが戻り、冬を彩る光のページェントは、街を美しく彩って目を楽しませてくれています。街の活気を栄養剤にして前を向き進んでいきたいと思うこの頃です。

 さて、人はさまざまな運命に導かれているわけですが、その捉え方次第でまた進む道は変わってくるものです。今回はそんな観点からクリスマスにぴったりの名作アニメをご紹介します。

 主人公は大都会新宿の片隅で生きる3人組のホームレス。箱暮らし生活がかれこれ20年以上になるおじさんギンちゃんと、少し前に仕事も家も失った体は男で心は女のハナちゃん、そして家族と折り合いが悪くて家出した女子高校生のミユキは、いつの間にやら同じダンボールで暮らすようになりました。毎日悪態をつき合いながらも、炊き出しの食事を分け合い、暖を取りに集会に出かけ、その日その日を互いに支え合いながら生きています。雪の降りしきるクリスマス、ハナちゃんは2人をゴミ集積場へ誘います。ここにはいろんな拾い物があるからです。ミユキへのプレゼントを探していたハナちゃんが見つけたのは、なんと生まれたばかりの赤ちゃんでした。

 ギンちゃんとミユキはすぐに警察に届けることを提案しますが、家族に強い憧れのあるハナちゃんは、かわいい赤ん坊を早速キヨコと呼び「神様からのクリスマスプレゼントだ」と言って手離そうとしません。よく見るとキヨコが入っていたカゴには親に繋がる手がかりが残されていました。そうしてクリスマスから大晦日までの1週間、キヨコの親探しが始まります。愛くるしい赤ん坊の存在が、家や家族を手放すことになった3人の過去を今に引き戻します。行く先々で驚きの展開が待ち受け、3人は何度もピンチに陥りますが、同時に自分の人生とも対峙することになるのです。

 家もなく職もない彼らは社会的弱者ですが、大事な人を想い自分の気持ちにまっすぐに生きようとする強さがあります。猪突猛進にキヨコを守る彼らの姿は、生きることの尊さを肌で感じる人間本来の純真さを思い出させました。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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