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歓喜の歌

志尾 睦子

2007年 112分
監督:松岡錠司
出演:小林薫/安田成美/伊藤淳史/他
  
声の重なりは心の重なり

 「音楽の街・高崎」代名詞の一つである高崎第九合唱団の青いフラッグが街ゆく人たちの目を惹きつける時期になりました。毎年、シンフォニーロードにゆれる第九の文字を見るといよいよ年末がやって来た、と思います。同時に、合唱の活気が思い起こされ、よし頑張ろうという気になるから不思議です。音楽は人の心を打ちますが、さらに人の声が共鳴し重なり合う合唱には生命力そのものを感じ、深い感動が広がります。

 さて、今回はそんな第九にまつわる素敵な作品をご紹介します。舞台はとある地方の「みたま町」、この町の文化会館に勤める主任の飯塚は、あと数日で終わる年の瀬に、大変なことに気がつきます。二日後に迫った大晦日のホール予約が、名前の似た団体でダブルブッキングされていたのです。創立20周年の記念公演となる「みたまレディースコーラス」と、結成して1年半、初の発表公演となる「みたま町コーラスガールズ」。飯塚主任は自分のミスなのに、どちらかが引いてくれれば事は収まる、と双方の調整をはじめます。当然二つのグループには、熱い思いも意地もあり、互いに一歩も譲りません。飯塚は、そんな彼女たちの元に部下の加藤と説得に出向きます。

 そもそも論として、飯塚主任のいい加減な仕事が今回の騒動を引き起こしているのですが、本人はある種他人事。ひとの良い部下が上司をフォローしながら2つのコーラスグループを行き来します。そうした中でコーラスに情熱を注ぐそれぞれの人生が浮かび上がります。からりとした中に潜む人生の哀切や奥深い人間模様は、とても身近な話題として描かれていて共感するところも多いはず。仕事に身の入らない飯塚の、自分なりの理由もそれなりに頷けてしまうのは、人間味があるからに他なりません。人を深く洞察して描こうとする監督の手腕と何より演じる小林薫さんの表現力も見どころです。そして、最初は「たかだかママさんコーラスだろう」と軽く見ていた飯塚が、彼女たちの魅力や真剣さを目の当たりにすることで、段々と自分の中の誠意に気づいていく。その姿に、人を動かすのは人の真心だとも気付かされます。二日間の大騒動、決着はつくのでしょうか。第九がどんな風に聞こえてくるのか、それも見てのお楽しみです。

 原案が立川志の輔さんの新作落語だけに、人間の悲喜こもごも、おかしみが繊細に盛り込まれたストーリーですが、映像になったからこそ見えてくる〝間〟も楽しめる逸品です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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