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マリーゴールド・ホテルで会いましょう

志尾 睦子

イギリス=アメリカ=アラブ
監督:ジョン・マッデン 
出演:ジュディ・デンチ/ビル・ナイ/他

もう遅い、なんてことは人生にはない

 今年の立春は温かな陽気に包まれて、気分がとても和らぎました。旧暦になぞらえれば、一年が新しく始まった日でもあります。年明けからの忙しさを振り返ると、立春からまた立て直せるのだ、と思えて少し得をした気になります。都合がいいと言えばいいのですが、そうやって節目を切り替えるチャンスと捉えると、なんだが物事の進みも上手くいくような気がします。重要なのは、切り替えようという自分の心意気。今回はそんな、人生切り替えのタイミングをうまく掴んだ人たちのハッピーな物語をご紹介します。

 イギリスのある場所、ある日からこの物語は始まります。40年連れ添った夫を亡くしたばかりのイヴリン、高等法院の判事を長年務めながら突然引退を決めたグレアム、退職金で新しい住処を探そうとするダグラスとジーン夫妻、身寄りもなく人工関節手術を受けるために入院しているミュリエル、娘から孫の世話を頼まれることに辟易したマッジ、いつまでもロマンスを追い求めるノーマン、60代から70代の彼ら7人はそれぞれの理由と目的を持ってインドの高級リゾートホテルに行くことを決めます。

 旅行ではなく、終の住処にもなる場所としてこの地を選んだ彼らの新しい人生が始まる、はずだったのですが、たどり着いたジャイプールのホテルは広告とは全く違う様相でした。 
 
 彼らを迎え入れてくれたのは、このホテルを継ぐことに決めた若き支配人・ソニー。実は彼の父親が営んでいたホテルは昔は栄えていたものの、父が亡くなりしばらく荒れ放題になっていたとか。それでもソニーはこのホテルを建て直したいとお客様を呼び込む作戦に出たのです。驚きの顛末とはいえ、それぞれの事情を抱えた7人は行くあてもお金も無く、仕方なくここに残って生活することにするのです。

 彩りに溢れ、生命力を感じるインドの街並みが、長い月日を過ごして来た年齢の彼らの心に変化をもたらしていきます。取り戻せないと思うことや、もう遅いと思っていたことが、不思議とこの地では今のこととして受け入れられるのです。環境や条件で、自分のできることを先んじて決めてしまいがちですが、そんな必要はないのです。7人7様の過去と今を映し出しながら、人が人に寄り添う時間の尊さ、が伝わってきます。受け入れること、手放すこと、その両方が魅力的な登場人物たちによって活き活きと描かれます。

 彼らは明日の自分かもしれない、と思って観ることをお勧めしたい一作です。

志尾 睦子(しお むつこ)
群馬県立女子大学在学中にボランティアスタッフとして高崎映画祭の活動に参加。群馬県内初のミニシアター「シネマテークたかさき」の総支配人を務めると同時に、日本を代表する映画祭である高崎映画祭総合プロデューサーとして活躍。

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