映画文化を守り育てるために

(2023年10月5日)

NPOたかさきコミュニティシネマ代表、高崎映画祭プロデューサーなど広く活躍する志尾さん
ミニシアターのシネマテークたかさき
昭和の映画館「高崎電気館」の保存・活用にも尽力

志尾さんがコミュニティシネマセンター代表理事に就任

映画文化を守り育てるコミュニティシネマ

「ドイツには官民共同で運営するコミナール・キノと呼ばれる映画館があります。それをヒントに映画文化を守り育てるため、公からの支援を受けた映画上映活動である“コミュニティシネマ”という概念が生まれました。こうした映画上映のあり方を増やす活動を続けているのが、コミュニティシネマセンターです」と志尾さんは話す。

 

同センターの前身である上映者ネットワーク会議が1996年に始まり、2003年にコミュニティシネマセンターが設立。2022年12月現在、北海道から沖縄まで75の映画館や映画祭、美術館や上映団体などが参加する。

 

「日本で映画が芸術のひとつだと国が認めたのが2001年です。文化芸術振興基本法(2017年に文化芸術基本法になる)のなかで、映画はメディア芸術のひとつであり、国民文化の一翼を担うものとして振興されるべきもの、と明言されました」。だが今現在、日本には映画業界に対する恒常的な公的支援はほとんどなく、先の文化芸術基本法にも支援に関する規定はない。

 

「フランスにはCNC(フランス国立映画映像センター)という組織があり、韓国にはそれを手本にしたKOFIC(韓国映画振興委員会)という独立した行政機関があります。製作現場から上映する映画館、教育という領域にも支援が行き届いて、KOFIC傘下のKAFA(韓国映画アカデミー)には『パラサイト 半地下の家族』のポン・ジュノ監督も在籍していました」

8月31日までシネマテークたかさきで上映されていた「同じ下着を着るふたりの女」という140分の長編映画も、1992年生まれのキム・セイン監督によるKOFICの卒業制作だというから驚きだ。映画業界への公的支援の差は、私たちの身近なところにも表れている。

 

 

映画振興のため知恵を共有する場

2004年にシネマテークたかさきを始めた当初は、とにかく良い映画を上映していけばお客様は来てくれると考え、お客様を呼ぶようなイベントは、あまり実施しておらず苦戦が続いた。

 

コミュニティシネマセンターでは定期的に、各地の映画振興の事例の情報交換を行っている。その影響もあり、現在では志尾さんも色々な企画を実施している。

 

「高崎映画祭の授賞式も個人的には気が進みませんでした(笑)。でも、今では俳優さんを見に来てくれた人が一本でも映画を見てくれたら、劇場で映画を見ることが好きになるかもしれない、という思いです。ほかにも、いろいろな企画にも取り組んでいます」と話す志尾さん。

 

例えば、監督によるティーチイン(観客との質疑応答)や、フランス映画を特集した際には、その分野に精通した編集者を招いたトークショーなどを開いている。「映画が上映されるまでには、たくさんの人が関わっています。単に作品をお披露目する舞台挨拶じゃなく、映画の作り手にスポットを当てる機会を設けていけたらと思っています」。

 

文化は地域と共に育てるもの

志尾さんによると、高崎市の特長は文化芸術に対する行政の支援が非常に手厚い点にあるという。高崎映画祭、高崎音楽祭、高崎マーチングフェスティバルなど、大きな文化関連イベントも多い。

 

「群馬交響楽団による移動音楽教室、群馬音楽センターなどの建設などから続く、文化を応援するDNAが受け継がれているのでは」と志尾さんは話す。

 

9月22・23日には高崎芸術劇場で、全国の映画館や映画祭、コミュニティシネマの活動に関心のある人が集まる全国コミュニティシネマ会議が開催される。“アートとまちづくり”が大きなテーマのひとつだ。宮城県や福島県でアートを使って、地域の魅力を引き出そうと奮闘するキーマンを招いてディスカッションを行う。

 

高崎では2016年にも全国コミュニティシネマ会議を開催。民間から市に高崎電気館が寄付され、その運営管理をたかさきコミュニティシネマが行う、というトピックスに注目が集まった。

 

「文化は地域と共に育てていくものだと私は思います。映画に限らず芸術は、触れた人の内面を変化させ、生きる糧を見つける機会にもなります。健やかに、穏やかに生きるために芸術があるのだと考えています」と力を込める志尾さん。

 

代表理事を務める2年間、コミュニティシネマという考えをもっと多くの人に伝え、各地で国や地方自治体による映画への公的支援を少しでも進めていきたいと、志尾さんは思いを新たにしている。

 

 

劇場公開された映画の4割はミニシアターだけでの上映

娯楽性の高いハリッド映画や劇場版アニメなどは収益性も高く、シネコンを中心に上映されている。一方のミニシアターでは、多種多様なタイトルが上映され、文化の多様性を確保するという面で大きな役割を果たしている。

 

ちなみに2021年、日本で公開された映画が1112本、そのうち72%(805本)はミニシアターで上映、さらに40%(441本)の作品はミニシアターのみで上映された。※   ミニシアターがなければ40パーセントの映画が上映の場所を失うことになる。

 

現在のシネマテークたかさきでは、支配人の小林栄子さんが上映プログラムを決定している。小林さんは韓国映画に詳しく、関東でも有数の充実した上映ラインナップだ。顔の見える人が上映作品を選んでいる信頼感も、コミュニティシネマの特長のひとつだ。

高崎商工会議所「商工たかさき」2023年9月号

 

 

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